「再分化」の解像度を上げる――ナズナの“根を経るカルス”と、ペチュニアの“根を経ない”シュート再生

葉切片の切断部からカルスを経て新しいシュートが立ち上がる様子を描いた水彩画 研究

植物の組織培養では、「カルスを作って、そこから芽を再分化させる」という言い方をよくします。実際、培養条件を考えるうえではこれで十分なことも多いです。しかし分子レベルで眺めると、この説明はかなり粗いことが分かってきました。

そもそもカルスとは何なのか。カルスになった細胞は、どうやって再び芽を作れる状態になるのか。そして、シュート再分化に至るまでの道筋は、植物に共通する一本道なのでしょうか。

以前取り上げたシロイヌナズナの研究と、2026年8月に発表されたペチュニアの研究を並べると、再分化研究そのものの見え方が変わってきます。今回のキーワードは、「再分化の解像度を上げる」です。

カルスは「何にでもなれる未分化細胞の塊」ではなかった

大きな転換点の一つが、Sugimoto、Jiao、Meyerowitzらが2010年に Developmental Cell に発表した研究です。

それ以前、カルスはしばしば、分化した植物細胞が一度「未分化な状態」へ戻ってできる細胞塊としてイメージされていました。

ところがシロイヌナズナで詳しく調べてみると、そう単純ではありませんでした。根だけではなく、子葉や花弁など地上部組織から作ったカルスであっても、遺伝子発現や組織構造は根端分裂組織、特に側根形成プログラムに近い特徴を持っていました。さらに、側根形成を開始できない変異体では、複数の組織からのカルス形成そのものが阻害されました。

つまり、

分化した組織 → 完全な未分化状態 → カルス

というより、

分化した組織 → 側根形成に似た発生プログラム → カルス

と考えた方が実態に近かったのです。

これはかなり大きな認識の変更です。「カルス」という見た目が同じだからといって、中身まで何者でもない細胞になっているわけではありません。

さらに、「根っぽくなる」ことには意味があった

2015年、Kareemらはこのモデルをさらに一段掘り下げました。

シロイヌナズナの典型的な再分化系では、まずオーキシンの多い callus-inducing medium(CIM)でカルスを作り、その後サイトカイニンの多い shoot-inducing medium(SIM)へ移します。

ここでPLT3、PLT5、PLT7というPLETHORA転写因子群を欠損させると、カルス自体は形成されるにもかかわらず、そこからシュートを再生できなくなりました。

さらにPLT3/5/7は、根の幹細胞領域を制御するPLT1、PLT2を誘導します。PLT1またはPLT2を戻すと、シュート前駆細胞を作る能力は回復します。しかし、それだけでは完成したシュートにはなりません。後段ではCUC2などのシュート形成プログラムも必要でした。

ここから見えてきたのは、根型の幹細胞プログラムを獲得する段階と、その能力を使ってシュートを作る段階を分けて考える必要がある、ということでした。

言い換えれば、シロイヌナズナの典型的な二段階培養系では、「根っぽい状態」は単なる寄り道ではありません。それが、次に何かを作れる regeneration competence、あるいはpluripotencyを獲得する過程と深く結びついていたのです。

ここでいう「まず根になる」は、本当に根という器官を一本作ってから芽になるという意味ではありません。root meristem/lateral root primordiumに似た分子的・発生的状態をいったん利用するという意味です。

2026年には、その「再分化できる状態」に時間制限まで見えてきた

そして2026年には、シロイヌナズナのこのモデルの解像度がさらに上がっています。

Baeらは Nature Communications で、CIM上のカルスが常に同じ再分化能力を維持しているわけではないことを示しました。

葉由来カルスでは、CIM培養4〜7日程度でシュート再生能力が高くなりますが、そのまま長くCIMに置いてカルスを大きくしても、再分化能力はむしろ低下しました。この傾向は根や胚軸由来のカルス、複数のArabidopsis accessionでも確認されています。

single-cell RNA-seqで見ると、この変化は単なる「カルスの老化」ではありませんでした。再分化能力の高い時期には、WOX5を中心としたroot stem-cell activityが維持されています。ところが培養を続けるとWOX5–TAA1系が弱まり、細胞集団はlateral root cap様の分化状態へ移行していきます。ROS、低酸素応答、サリチル酸系なども変化し、再分化能力が失われていきます。

つまり「カルスができた」という観察だけでは、まだ情報が足りません。同じカルスに見えても、まだ再分化能を獲得していないカルス、再分化能の高いカルス、すでに再分化能を失いつつあるカルスがあるわけです。

ここまで来ると、「カルス形成率」だけを測って再分化系を評価することが、かなり粗い指標であることも見えてきます。

では、根型プログラムは必須なのか

ここで2026年8月28日に Frontiers in Plant Science から出たペチュニアの研究につながります。

Zhangらは、Petunia hybrida ‘Mitchell Diploid’の葉片を、MS培地に2.5 μM 6-BAを加えた培地で培養しました。外因性のオーキシンは加えていません。

この条件では傷口付近にカルスが形成され、約14日で目視可能なshoot primordiaが現れます。重要なのは、CIMからSIMへ移す二段階培養ではなく、最初からサイトカイニンを含む同じ培地上で進むone-step regenerationだという点です。

ただし、ここは用語を慎重にした方がよいところです。ペチュニアではカルスを経由しています。したがって、組織学的な分類ではdirect organogenesisではなく、著者ら自身がDiscussionで述べているようにindirect organogenesisです。one-stepであることとdirect organogenesisであることは同義ではありません。

研究チームは0時間、2時間、4時間、1日、4日、7日のRNA-seqを行い、再分化過程を追いました。すると、シロイヌナズナの典型的なCIM誘導カルスとは違うことが起きていました。

「根になる」部分が見えないまま、シュート側が始まった

2010年から2026年までの植物シュート再分化研究の進展をまとめた英語インフォグラフィック
植物のde novo shoot regeneration研究で、2010年以降どのように「再分化」の解像度が上がってきたかをまとめた概念図。Sugimoto et al. (2010)、Kareem et al. (2015)、Bae et al. (2026)、Zhang et al. (2026)をもとに作成。

ペチュニアでもPhPLT3系の遺伝子は誘導されます。

ところが、その下流でシロイヌナズナのroot-meristem-like stateを特徴づけるはずのPhWOX5やPhPLT1bは発現せず、PhPLT1aも非常に低いままでした。SHRや複数のLBD、WOX11/12などについても、canonicalなLRPプログラムがまとまって立ち上がったとは言いにくい発現パターンでした。

「ペチュニアではそもそもこれらの遺伝子が働かないのではないか」という可能性もあります。そこで著者らは、同じ葉片にNAAを与えています。するとPhWOX5はday 2、PhPLT1a/bはday 4には検出されました。つまり、ペチュニアにもroot-meristem programを起動する能力はあります。サイトカイニン主体でシュートを作っている今回の条件で、それがほとんど使われていなかったのです。

その一方で、シュート側のプログラムは動いていました。PhESR1aとPhWUSはday 4には強く誘導され、day 7にはPhSTMやNAM/CUC系などshoot apical meristem形成に関わる遺伝子が上昇します。

概念的には、シロイヌナズナの典型的CIM→SIM系が「組織 → auxin → root/LRP-like program → regeneration competence → cytokinin → shoot meristem → shoot」なのに対し、今回のペチュニア系では「葉片+傷害+cytokinin → 細胞増殖・カルス形成 → shoot meristem program → shoot」という、少なくとも分子マーカー上は異なる経路が見えてきたことになります。

ただし「根のプログラムは完全に不要」とまではまだ言えない

今回の論文で特に注意したいのはここです。

RNA-seqはleaf discをまとめて解析したbulk RNA-seqです。もし再分化を開始するごく少数の細胞だけが短時間WOX5などを発現していた場合、組織全体のRNAに希釈されて見えない可能性があります。

また、今回の研究はcell lineageを直接追跡して、「この細胞は一度もroot-meristem-like stateにならなかった」と証明したものではありません。

したがって現時点で最も安全なのは、「canonicalなroot-meristem signatureを明瞭に形成せずにシュート再分化が進行した」と表現することだと思います。

今後、single-cell RNA-seq、spatial transcriptomics、WOX5やPLT1/2のreporter、lineage tracingなどで追跡できれば、この「bypass」はさらに強く検証できるでしょう。

著者ら自身も、今回のRNA-seqにはtime-matchedなhormone-free controlがないため、サイトカイニン特異的変化と単なる培養・傷害による時間変化を完全には分離できないことをlimitationsとして認めています。

「ナズナとペチュニアは違う」と結論するのもまだ早い

もう一つ重要なのは、今回比較している条件です。

シロイヌナズナで確立してきたモデルは主に、auxin-rich CIM → cytokinin-rich SIMという二段階培養系です。一方、今回のペチュニアは、cytokininのみを外から加えたone-step systemです。

つまり、植物種と培養プロトコルという二つの変数が同時に変わっています

したがって「ナズナは根経路、ペチュニアは非根経路」という種固有の違いまで、この研究だけから断定することはできません。

実際、ArabidopsisでもCIMを経ずにサイトカイニン条件へ直接置くことでshoot regenerationが起こる系が報告されています。またトレニアでは、サイトカイニン条件下で成熟した茎表皮細胞から、カルス塊すら経ずに直接shoot apical meristemを作れる系が解析されています。

つまり、今回のペチュニア論文を、「ペチュニアが、ナズナで知られていた普遍則を破った」と読むより、「ナズナの一つの優れたモデルを、植物再分化全体の普遍則だと思わない方がよいことがさらに明確になった」と読む方が正確でしょう。

再分化という一語を分解して考える

この一連の研究を並べると、再分化研究そのものの解像度が上がってきたことが分かります。

最初は、カルス → シュートでした。

それが、カルスは未分化塊ではなく、root-likeな発生プログラムを持つことがあると分かりました。さらに、root stem-cell programが再分化competenceの獲得に使われることが分かりました。さらに、そのcompetenceはカルスに永久に備わっているわけではなく、時間とともに獲得され、失われることまで見えてきました。そして今回、そもそもroot-like competenceを明瞭に経由しなくても、shootへ到達できる系があることがペチュニアで示されました。

「再分化する・しない」という二値の現象ではなかったのです。

少なくとも、どの細胞から始まったのか、何がreprogrammingを開始したのか、どの中間状態を通ったのか、いつregeneration competenceを獲得したのか、そのcompetenceをどれだけ維持できたのか、どの経路でshoot meristemを立ち上げたのか――まで分解して考える必要があります。

実用的にも、この見方は重要かもしれない

これは基礎発生学だけの話ではありません。

植物の形質転換やゲノム編集では、「この植物は再分化しにくい」という問題によくぶつかります。しかし再分化を一つの現象として扱ってしまうと、どこで止まっているのかが分かりません。

カルス形成ができないのか。細胞分裂はするがregeneration competenceを獲得できないのか。competenceは一度獲得しているのに培養期間中に失っているのか。shoot progenitorは形成するがSAMを完成できないのか。

さらには、そもそもその植物に対してシロイヌナズナ型のroot-like routeを通らせることが最適なのかという問いまで出てきます。

ペチュニアの結果が示唆しているのは、「再分化を強くする遺伝子」を一つ探せば終わるという話ではなく、植物種や組織、ホルモン条件によって、利用できるdevelopmental routeそのものが違う可能性です。

再分化率という最後の数字だけを見るのではなく、その手前の状態を一つずつ測る。その方が、「なぜ再分化しないのか」「どうすれば再分化するのか」をずっと正確に考えられるはずです。

「再分化」の解像度を上げる

シロイヌナズナの研究が間違っていたわけではありません。むしろ逆です。

2010年の研究によって、それまで「未分化な細胞塊」とされていたカルスの中に、root development programという具体的な状態が見えるようになりました。その後の研究で、その中にPLT、WOX、幹細胞活性、時間依存的なpluripotencyというさらに細かな構造が見えてきました。

そして別の植物や別の培養系を調べたことで、今度はその経路自体が唯一ではないことが見え始めています。

科学が進んだ結果、以前のモデルが消えたのではありません。モデルの適用範囲が分かり、さらに細かく分類できるようになった。

今回のペチュニア論文の面白さは、まさにそこにあると思います。

「カルスから芽が出る」という現象を、どこまで細かく見ることができるか。

再分化の研究は今、「できる・できない」から、その途中で細胞がどの道を通ったのかを問う段階へ進んでいるように見えます。

References

  • Sugimoto K, Jiao Y, Meyerowitz EM. Arabidopsis regeneration from multiple tissues occurs via a root development pathway. Developmental Cell 18, 463–471 (2010). DOI: https://doi.org/10.1016/j.devcel.2010.02.004
  • Kareem A, et al. PLETHORA Genes Control Regeneration by a Two-Step Mechanism. Current Biology 25, 1017–1030 (2015). DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2015.02.022
  • Bae SH, et al. Stem cell activity is linked to a transient acquisition of pluripotency during callus proliferation. Nature Communications 17, 6585 (2026). DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-026-73124-x
  • Zhang X, Yue Y, Cai L, Guo Y. Cytokinin-supplemented medium drives de novo shoot regeneration in petunia (Petunia hybrida) by bypassing the root-meristem program. Frontiers in Plant Science 17:1918195 (2026). DOI: https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1918195

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