トマト13系統を45℃で比べた研究――耐熱性の「部品」は、まだ植物の中に眠っている

強い夏の日差しの下で、栽培型と野生型を思わせる複数のトマト系統が生育する様子を描いた水彩画 研究

品種改良というと、すでに知られている有用遺伝子を組み合わせて、より良い植物を作っていくイメージがあります。しかし植物を研究していると、ときどき逆のことを感じます。私たちは、植物がもともと持っている能力をまだ十分に見つけられていないのではないか、と。

2026年8月に『BMC Plant Biology』で公開された研究では、栽培トマト2品種と野生近縁種11アクセッション、合計13遺伝子型を45℃の急性高温ストレスにさらし、その反応を比較しています。評価したのは、成長量だけではありません。水分状態、クロロフィル、膜障害、プロリン、抗酸化酵素のSODやCATなどをまとめて測り、「植物が暑さにどう耐えているのか」を多面的に見ています。

原著論文:Şimsek E, Yıldız K, Çevik S, et al. Integrative systems analysis reveals heat-induced functional divergence in cultivated and wild tomato genotypes. BMC Plant Biology. Published 28 August 2026. https://link.springer.com/article/10.1186/s12870-026-09807-w

この論文を最初に読むと、「栽培トマトと野生トマトでは耐熱性の仕組みが違う」という話に見えます。ただ、詳しく見ていくともう少し面白いことが起きています。

「暑さに強い」は一種類ではなかった

総合評価で上位になったのは、栽培品種のİksirと、野生の Solanum pimpinellifolium PI 365957でした。ところが、両者は同じように暑さに耐えているわけではありません。

İksirで目立つのは、高温下でも成長を維持する能力です。一方のPI 365957では、膜障害の指標であるMDAが大きく低下し、CAT活性が強く上昇するなど、細胞を酸化ストレスから守る側の特徴が目立ちます。論文でも、İksirは高いバイオマス維持能力を示し、PI 365957は抗酸化応答と膜保護に特徴を持つ系統として評価されています。

さらに他の野生系統を見ると、違う特徴が次々に出てきます。

系統今回目立った特徴見えてくる「耐熱性の部品」
İksir高温下でもバイオマスを維持成長を止めない能力
PI 365957CAT +200.7%、MDA −59.9%ROS制御、膜保護
PI 231257SOD +75.4%で最大強いSOD応答
PI 246502CAT・SODの総合評価が非常に高い強力な抗酸化防御
PI 365918CAT +159.6%、MDA −56.3%、クロロフィル +20.8%一部の細胞防御は強い
KamentaProline +127.8%、SOD +44.1%浸透圧調節+抗酸化

PI 231257ではSOD活性が75.4%上昇し、全系統で最大でした。PI 365918は植物全体としては高温に強いとは評価されていないにもかかわらず、CATは159.6%増加し、MDAは56.3%低下、クロロフィル量も20.8%増えています。

そして特に興味深いのが S. pennellii PI 246502です。総合評価を見ると、バイオマスと草丈の評価値はともに0。一方でCATとSODはともに1.00、膜安定性も0.99です。つまり、高温下でよく育つ植物ではありません。しかし、細胞防御だけを見るとトップクラスです。著者らも、この系統では極めて強い抗酸化応答が見られる一方、大きなvegetative penaltyを伴うと指摘しています。

ここが、この論文で一番面白いところだと思います。

「一番強い植物」だけ探していたら、取りこぼす

耐熱性を「高温でもよく育ったか」という一本の物差しだけで評価すると、İksirやPI 365957のような系統は見つかります。

しかし、それだけではPI 246502のような系統は「暑さに弱い」として落とされるかもしれません。

ところが耐熱性を分解すると、成長を維持する能力、光合成装置を維持する能力、膜を守る能力、水分を維持する能力、活性酸素を除去する能力、浸透圧を調節する能力といった複数の「部品」が見えてきます。

論文のMFV解析でも、総合順位とは別に、それぞれの系統が異なる形質で突出しています。著者らが最終的に野生近縁種を気候変動対応育種のための遺伝資源として位置づけている理由もここにあります。

つまり、探すべきなのは「最強の野生トマト」だけではありません。

ある系統からは膜保護、別の系統からはSOD応答、さらに別の系統からは水分保持能力を拾えるかもしれない。

今後QTL解析やGWAS、RNA-seq、比較ゲノムなどを組み合わせていけば、それぞれの違いを生み出しているアレルや制御機構が見つかる可能性があります。今回の研究は、その原因遺伝子まで突き止めた研究ではありません。しかし逆に言えば、掘る場所がかなり残っています。

同じ種の中ですら、全然違う

もう一つ重要なのが、PI 365957とPI 365918です。

どちらも S. pimpinellifolium です。しかしPI 365957は総合耐熱性で上位に入り、PI 365918は低い評価になりました。それでも先ほど見たように、PI 365918にもCAT、膜保護、クロロフィル維持という強い特徴があります。

著者らもこの二つのアクセッションの大きな違いを取り上げ、「種が違うから耐熱性が違う」というだけではなく、同一種内でもアクセッションレベルの大きな多様性があることを強調しています。

S. pimpinellifolium は耐熱性遺伝資源です」と一括りにするだけでは、粗すぎるわけです。

これはかなり夢のある話です。

世界中に保存されている植物遺伝資源を一つ一つ違う角度から評価していけば、まだ知られていない有用形質が出てくる可能性があります。しかも「総合成績の良い植物」にだけ存在するとは限りません。一見使いにくそうな植物の中にも、一つだけ妙に優秀な機能が隠れているかもしれません。

ここからは少し、勝手な想像をしてみる

そして、この表を眺めていると少し別のことも考えてしまいます。

これだけ生理応答が違うなら、果実の味も違っていたりしないだろうか。

もちろん、これは今回の論文では調べていません。この実験は栄養成長期の植物に対する急性高温ストレス試験であり、果実の糖度、酸、有機酸、香気成分、食味などは測定していません。したがって「この耐熱系統は美味しい」といった結論は一切出せません。

ただし、想像する材料はあります。

トマトでは、栽培化やその後の育種によって、糖、有機酸、アミノ酸、香気成分に関係するアレル構成が変化してきたことが大規模GWASから分かっています。特に野生系統には、現代品種では失われたアレルの組み合わせが多く残っています。参考:https://www.nature.com/articles/s41467-019-09462-w

野生トマトのゲノム領域を栽培トマトへ導入したintrogression lineを大量に解析した研究でも、一つの野生由来領域の導入によって、代謝物や遺伝子発現、果実成熟に関わるネットワークがまとまって変化することが示されています。つまり、植物の形質は必ずしも「遺伝子一個=性能一個」という単純なものではありません。参考:https://www.nature.com/articles/s41588-020-0690-6

さらに、野生・栽培トマトの自然変異を利用した研究から糖蓄積を制御する遺伝子が見つかり、ゲノム編集によって果実重量や収量を落とさず糖を最大30%程度増やせる例まで報告されています。野生遺伝資源を調べることが、現在の品種には見えていなかった改良点の発見につながる実例です。参考:https://www.nature.com/articles/s41586-024-08186-2

そう考えると、PI 365957の「膜を守る」という特徴が果実の成熟や品質と何か関係していたり、PI 231257の強いROS制御が高温下での果実代謝に影響していたり、PI 365918が総合耐熱性では弱い一方で何か面白い代謝物を持っていたり――そんな可能性を考えたくなります。

実際にどうなのかは、測ってみなければ分かりません。

でも研究論文を読む面白さは、分かったことだけではなく、データを見た瞬間に「じゃあこれはどうなんだ?」という次の疑問が出てくるところにもあります。

耐熱性を調べていたはずなのに、気付けば「このトマト、味はどうなんだろう」と考えている。こういう脱線は結構好きです。

植物改良の材料は、まだ植物の中にある

今回の論文では、耐熱性に関わる原因遺伝子までは分かっていません。栽培型と野生型の違いを栽培化そのものの影響だと断定することもできません。13遺伝子型という比較規模にも限界があり、著者ら自身もより広い遺伝資源での検証が必要だとしています。

それでも、この結果から見えるものがあります。

同じ「暑さに耐える」という表現型の中に、植物ごとに違う解決策が存在している。

そして総合的には優秀ではない植物にも、一つ一つ分解して見ると突出した能力が残っています。

私たちは植物をかなり改良してきました。それでも、植物が長い進化の中で作ってきた多様性を全部理解したわけではありません。耐暑性だけでもこれだけ違うのですから、乾燥、塩、病害、栄養利用効率、品質、成分、食味まで広げれば、まだ見つかっていない改良要素は相当残っているはずです。

新しい植物をゼロから設計する技術が進んでいる一方で、植物自身がすでに持っているものを探す研究も、まだ終わりそうにありません。

この論文を読んで、一番感じたのはそこでした。

※現在公開されている論文は、査読・受理済みですが最終編集前のArticle in Press版です。Springer Natureは、最終Version of Recordまでに本文上の誤りなどが修正される可能性があると明記しています。

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