アボカドの果実はよく見ますが、花をじっくり見る機会はあまりありません。
その花には、かなり変わった時間の使い方があります。アボカドの花は雄花と雌花に分かれているわけではなく、ひとつの花に雌雄両方の器官を持つ両性花です。ところが、両方が同時に働くわけではありません。
最初に花が開いたときは雌として機能し、数時間後に閉じます。そして翌日、同じ花がもう一度開いたときには雄として花粉を出します。
つまり、ひとつの花が
雌 → 閉じる → 雄
という順番で二日間を過ごします。
2026年7月にPNASに掲載された研究は、この奇妙な「性の時計」を遺伝学から追いかけました。そこで見つかったのは、単にA型・B型を区別するマーカーではありませんでした。両者を支える遺伝子型は、種分化をまたいで4000万年以上維持されてきた可能性が示されたのです。

同じ花なのに、A型とB型では時計が逆
アボカドには、開花のタイミングによってA型とB型があります。
A型は1日目の朝に雌として開き、2日目の午後に雄として再び開きます。B型は逆で、1日目の午後に雌として開き、2日目の朝に雄として開きます。
一本の成木には大量の花があり、それぞれの開花日は少しずつずれています。そのため木全体で見ると、A型では朝に雌性期の花が多く、午後には雄性期の花が多い。B型ではその逆、という日周リズムが現れます。
よく知られたHassはA型です。一方、FuerteなどはB型として知られています。A型とB型を組み合わせると、片方が雌として受粉可能な時間帯に、もう片方が花粉を放出しやすくなります。
ただし、この時計は完全な機械時計ではありません。気温や明暗条件によって開花時刻はずれ、低温時などには雌性期と雄性期が重なることもあります。実際の結実は、開花型だけでなく気温、送粉昆虫、品種、樹の状態などにも左右されます。
ここで便宜上「性が切り替わる」と書いていますが、遺伝的な性別が雌から雄へ変わるわけではありません。もともと両性花であり、雌性機能と雄性機能を使う時刻が分かれている、というのが正確です。

100年前から知られていた謎を、ゲノムで追いかける
アボカドのこの現象は「synchronized dichogamy(同調型雌雄異熟)」と呼ばれ、20世紀初頭から植物学者を悩ませてきました。
今回、Jeffrey S. Grohらの研究チームは、A型の品種GEMとB型のLuna UCRを由来とする集団を使い、374個体のゲノムデータからA型・B型の違いを探索しました。
GWASで強く浮かび上がったのは、第10染色体上のひとつの領域です。研究チームはここをSD-locusと呼び、その中で最も有力な候補となった遺伝子をSDMYB(SYNCHRONIZED DICHOGAMY MYB)と名付けました。
SDMYBはR2R3-MYB型の転写因子をコードします。A型に対応する優性ハプロタイプをA1、B型に対応する劣性ハプロタイプをA2とすると、A1を持つ個体はA型になり、A2/A2ではB型になります。
面白いのは、SDMYBが「雌にする遺伝子」「雄にする遺伝子」として働いているわけではなさそうなことです。
遺伝子がずらしているのは「性」ではなく時刻だった
研究チームは、開花の二日間にわたって花からRNAを採取し、SDMYBの発現リズムを追いました。
A型でもB型でも、最初の開花後にSDMYBの発現はいったん低下し、その後、二度目の開花に近づくにつれて再び上昇します。ところがA1とA2では、その発現リズムの位相がずれていました。
特にA型個体が持つA1アレルでは、A2に比べて発現のピークが遅れる方向にずれています。この遅れは、A型の二度目の開花――雄性期――がB型より遅いことと対応していました。
つまり、この研究から見えてきたのは、
花の性を決めるスイッチというより、雌から雄へ機能を切り替える「時計の針」をずらす遺伝子
という姿です。
しかもSDMYBに近縁なMYB転写因子は、他の植物でも花の成熟や一日の開花時刻に関与しています。論文では、イネでindicaとjaponicaの小花が開く時刻の違いに関与するOsMYB8との近縁性も指摘されています。
植物が調節しているのは「何月に花を咲かせるか」だけではありません。「その日の何時に花を開くか」という時間まで、遺伝子制御の対象になっています。
なぜA型かB型のどちらかに統一されなかったのか
ここからが、この論文で特に面白いところです。
A型とB型は互いに反対の時間帯で雌雄機能を使います。もし集団のほとんどがA型になったとします。A型が雌として開く時間に、A型同士では雄性花粉が不足しやすくなります。
そこに少数のB型がいれば、B型はちょうど逆の時間帯に雄として働きます。多数派のA型には、少数派B型の花粉を受け取れる相手が大量にいることになります。
逆にB型ばかりになれば、今度はA型が希少であることが有利になります。
少数派になるほど有利になる。
こうした仕組みは、負の頻度依存選択(negative frequency-dependent selection)と呼ばれます。研究チームは、A1とA2の二つのハプロタイプが長期間共存してきた背景に、このような平衡選択があると考えています。
どちらか一方が「優れた型」だから固定されるのではなく、相手がいるからこそ自分にも価値が生まれる。A型とB型は、進化的には互いを必要とする組み合わせだったわけです。
その二つの遺伝子型は、アボカドより古かった
さらに研究チームは、アボカドだけでなくクスノキ科の近縁種へ解析を広げました。
するとA1とA2に対応するSDMYBハプロタイプは、アボカド以外の少なくとも26種でも確認されました。系統解析から、この二つの系統は4000万年以上前から分かれて存在していたと推定されています。論文では44 million yearsを超える古いtrans-species polymorphismとして扱われています。
ここで重要なのは、「現代のアボカド品種が4000万年前からそのまま存在した」という意味ではないことです。
そうではなく、現在の種が分かれるより前から存在した二つの遺伝子型が、種分化を何度もまたぎながら消えずに受け継がれてきたという話です。
通常、古い多型は時間とともにどちらかが失われていきます。それが何千万年という時間を越え、複数の種にまたがって残っている。これがtrans-species polymorphismです。
アボカドの朝と午後の奇妙な開花リズムを調べていたら、その背後から数千万年単位の進化史が出てきました。
さらにシナモンでは、似た仕組みを別に作った可能性がある
クスノキ科には、アボカドによく似たA型・B型の開花リズムを示す植物があります。シナモンの仲間です。
同じ科で似た現象があるなら、当然SDMYBの古いA1/A2多型を共通祖先から受け継いだと考えたくなります。
ところが研究チームがtrue cinnamon(Cinnamomum verum)を調べると、同じSDMYB多型は確認されませんでした。
つまり、外から見るとよく似た「時刻をずらして交配する仕組み」が、クスノキ科の中で独立に進化した可能性があります。
同じ問題に対して、進化が似た答えへ別々に到達したのかもしれません。この点は今回のデータから示唆された段階で、今後さらに多くのクスノキ科植物を調べる必要があります。
この発見はアボカド育種にも効いてくる
果樹育種では、実生から育てた個体が花を咲かせるまで待たなければ分からない形質が厄介です。開花型もその一つでした。
今回、SDMYB周辺の遺伝子型とA型・B型の対応が明確になったことで、苗のDNAから将来の開花型を早い段階で判別できる可能性があります。
育種家が欲しいのは、単にB型である樹ではありません。果実品質、収量、樹形、病害抵抗性などを選抜しながら、果樹園で受粉相手として機能する開花型も組み合わせる必要があります。
何年も育てて花を確認してから外すのではなく、苗の段階で候補を絞り込めるなら、長い時間がかかる果樹育種には大きな意味があります。
ただし、SDMYBが見つかったからといって、アボカドの開花時計がすべて解明されたわけではありません。今回の研究はSDMYBを非常に強い候補遺伝子として示し、そのアレルごとの発現リズムと開花時刻の対応を示しましたが、上流で何が時計を動かし、SDMYBが下流のどの遺伝子を制御して花を再び開かせるのかは残っています。
遺伝子編集でA型をB型へ直接変換した、といった機能実証を行った研究でもありません。
それでも、100年近く植物学者と育種家が眺めてきたA型・B型という現象が、ひとつの転写因子を中心とする遺伝的な時間差へかなり近づいたことは大きな前進です。
アボカドの花は、朝と午後で役割を交代します。
その小さな時間差の裏には、数千万年間、どちらか一方が消えることなく維持されてきた二つの遺伝子系統がありました。
「なぜこの花は朝と午後で性が違うのか」という素朴な疑問が、遺伝子の発現時刻、交配戦略、平衡選択、そして4000万年以上の進化史までつながっていく。今回の論文は、その流れがきれいに見える研究です。
紹介論文
Groh, J. S. et al. Balanced polymorphism in a floral transcription factor underlies the ancient rhythm of daily sex alternation in avocado. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 2026. DOI: 10.1073/pnas.2606876123. Published 28 July 2026.
開花型の基本的な説明については、University of California, RiversideのAvocado Variety Collectionも参照しました。
The Remarkable Avocado Flower(UC Riverside)
画像: Groh et al. (2026), PNASより。

コメント