インディカ米とジャポニカ米を交配すると、大きな雑種強勢を利用できる可能性があります。ただし、ハイブリッド米を作るには親同士が同じ時間帯に花を開き、花粉が受粉できなければなりません。
2024年の Nature Communications 論文は、この「一日の何時にイネの花が開くか」を調節する転写因子 OsMYB8 を同定しました。旧版では“高収量遺伝子”のように扱っていましたが、原著が直接示したのは開花時刻の同期を改善し、インディカ×ジャポニカのハイブリッド種子生産をしやすくする遺伝資源としての価値です。
インディカはジャポニカより1〜2時間早く花を開く
研究チームが12のジャポニカ品種と28のインディカ品種を比較すると、インディカの開花ピークはおおむね10〜11時、ジャポニカは12時前後でした。代表品種でも、インディカのTianFengBはジャポニカのZhongHua11より約1〜2時間早く開花しました。
ハイブリッド種子の採種では、この時間差が大きいと雌側の花が開いたときに雄側の花粉供給が十分でなくなり、種子生産効率が下がります。
OsMYB8を壊すと開花が遅くなった
CRISPR/Cas9でOsMYB8をノックアウトすると、ジャポニカ背景では開花ピークが約0.5時間、インディカ背景では約1時間遅くなりました。逆に、インディカ型のOsMYB8領域をジャポニカへ導入すると開花時刻が早まります。
この結果からOsMYB8は単なる相関マーカーではなく、開花時刻を制御する因果的な遺伝子だと分かります。
OsMYB8→OsJAR1→JA-Ileで穎鱗が膨らむ

イネの小花が開くときには、花の基部にあるlodicule(穎鱗)が吸水して膨らみ、外側のlemmaとpaleaを押し広げます。研究ではOsMYB8がジャスモン酸関連遺伝子 OsJAR1 の転写を直接促進し、活性型ジャスモン酸JA-Ileの蓄積を高めることが示されました。
JA-Ileの増加は穎鱗細胞の浸透圧や細胞壁リモデリングに関わる遺伝子群を変化させ、開花を促進します。インディカではOsMYB8プロモーターの自然変異によって発現量が高く、結果としてジャポニカより早く花を開くと考えられます。
インディカ型OsMYB8をジャポニカへ入れると約30分早まる
研究チームはインディカ型OsMYB8 alleleをジャポニカへ導入し、開花ピークを約0.5時間早めました。主要な農業形質には明確な悪影響が見られなかったと報告されています。
これは、インディカとジャポニカの開花時間を近づけ、採種時の受粉機会を増やすための育種素材になります。
「OsMYB8で15〜30%増収」ではない
論文は背景として、インディカ×ジャポニカの種間亜種ハイブリッドが、広く使われるインディカ×インディカのハイブリッドより約15〜30%高い収量ポテンシャルを持つと紹介しています。しかし、この数字はOsMYB8導入株そのものの収量試験結果ではありません。
OsMYB8が解決しようとしているのは、ハイブリッドの潜在収量を実際に利用する前段階――親系統の開花がずれてハイブリッド種子を効率良く生産できない問題です。
したがって、この研究の価値は「収量遺伝子を発見した」ではなく、開花時刻を遺伝的に同期させ、インディカ×ジャポニカ育種を実行しやすくする手段を得たことにあります。
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参考文献
- Gou Y et al. Natural variation in OsMYB8 confers diurnal floret opening time divergence between indica and japonica subspecies. Nature Communications. 2024;15:2262. https://doi.org/10.1038/s41467-024-46579-z


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