1500年前のカリブ海の食卓を糞石DNAから読む――トウモロコシ、サツマイモ、ワタまで

食・天然物

文献の残らない時代の食生活は、土器や石器だけでは十分に復元できません。2023年の PLOS ONE 論文は、プエルトリコ・ビエケス島の先コロンブス期遺跡から得られた糞石(coprolite)に残る古代DNAをshotgun metagenomicsで解析し、HuecoidとSaladoid文化の植物利用を調べました。

対象となった糞石は約1500年前、放射性炭素年代でHuecoidが245–600年、Saladoidが230–395年に相当します。

10個の糞石から植物DNAを解析

研究ではHuecoid 6個、Saladoid 4個の糞石を処理し、外側を除去した内部からDNAを抽出しました。植物配列に加え、植物病原菌由来と考えられるDNAも照合し、植物同定の補助に使っています。

検出された植物には、トウモロコシ、サツマイモ、トウガラシ、ピーナッツ、パパイヤ、トマト、ワタ、タバコなどが含まれました。

「30種類以上の食用植物」ではない

旧記事では30種類以上の植物やキャッサバ、キビなどを今回の糞石から直接検出したように書いていましたが、原著のHuecoid/Saladoid試料で分類された植物は9 taxaです。キャッサバは当時のカリブ海食文化を説明する既知の考古学資料として言及されていますが、今回の主要DNA検出リストには含まれません。

ワタやタバコのDNAは「食べた」と断定できない

特に面白いのがワタ(Gossypium barbadense)とタバコ(Nicotiana)です。ただし、糞石から植物DNAが検出されたことは、その植物を通常の食材として食べたことを直接証明するものではありません。

薬用・儀礼・加工時の混入、近縁種の誤同定、過去の数回の食事だけを反映している可能性があります。著者ら自身も、現在の参照ゲノムdatabaseが商業作物へ偏っていること、putative assignmentが含まれることを限界として挙げています。

植物病原菌DNAも食文化の手がかり

植物だけでなく、植物病原菌と宿主の関係も解析されました。例えば Ustilago 属の検出は、トウモロコシやhuitlacoche利用の可能性と整合します。

ただし、これも補助的な証拠です。古代DNAは断片化しており、databaseに存在する近縁種へ割り当てられる場合もあります。

糞石が見せるのは「その人の食文化の全体」ではない

糞石1個は、数回の食事や消化・保存過程の影響を強く受けます。植物DNAがないから食べていなかった、あるから常食していた、と単純には言えません。

この研究の価値は、考古植物学、石器上のデンプン粒、歴史記録とは別の独立した窓として、古代DNAから植物利用を復元できることです。

先コロンブス期のカリブ海では、トウモロコシ、サツマイモ、トウガラシ、ピーナッツ、果実など多様な植物が使われていたという既存像を支持しながら、ワタやタバコのような意外なDNAも拾い上げました。

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参考文献

  • Reynoso-García J et al. Edible flora in pre-Columbian Caribbean coprolites: Expected and unexpected data. PLOS ONE. 2023;18:e0292077. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0292077

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