生物模倣-イチジクの葉の形態からヒントを得た効率的な点滴灌水装置-

研究

菩提樹(インドボダイジュ)の葉の形を知っていますか?

現代の灌漑農業は、地球上で利用可能な淡水の約70%を消費しています。これによる水不足は、約40億人に影響を及ぼし、今後も増加すると予想されています。特にトウモロコシのような作物は、水不足に非常に弱く、収量の約40%が減少することがあります。この状況を踏まえ、より効率的な灌漑方法の開発が急務となっています。
自然界には様々な問題の解決ヒントが隠されていることがあります。その1つが生物模倣です。生物の有用な形や特性を模倣することで、今まで存在しなかった有用なものを作り出します。今回紹介する論文では、仏教聖樹である「菩提樹」であるインドボダイジュの葉のユニークな形状から着想を得た、新しい灌漑システムが開発されました。ボダイジュの葉は、葉側面の曲線と長い尾部が、水の流れを制御し、効率的な水分排出を実現しています。開発のシステムは、ボダイジュ葉の形状を模した「BLAM(Bodhi-Leaf-Apex-Mimetic)」エミッターを使用し、水の節約と植物の発芽・成長を助けることを目的としていました。具体的に見ていきましょう。
Efficient agricultural drip irrigation inspired by fig leaf morphology

菩提葉の逆曲率と長い尾により排水効率が向上
https://www.nature.com/articles/s41467-023-41673-0

方法:ボダイジュ葉をモデルにした革新的な灌漑システムの設計

イチジク属(ボダイジュのグループ)の植物は、その特異な葉の形状によって、効率的な水の排出を実現しており、この研究ではその特徴を活かした灌漑システムが開発されました。まずイチジク属の18種類を調査し、葉の先端形状に基づいて5つのグループに分類しました。人工的な葉をレーザーカットしたポリエチレンテレフタレートで作成し、水の流れや滴の分離を詳細に分析することで、このシステムの効果を探求しています。レーザーカッターや3Dプリンターの普及は、この様な生物模倣分野での研究を推し進めることにつながっているなと感じますね。

人工菩提樹の葉の形状を変更した液滴分離重心の曲率と長い尾部、および強化された水滴周期
https://www.nature.com/articles/s41467-023-41673-0

結果:BLAMエミッターによる高効率な水利用

ボダイジュの葉側面の曲線は、水の流れの力学を再形成し、滴の分離中心を決定していました。PETをカットして作った人工葉は、水の流れを制御し、水滴の形成を助けるための小さな隆起を持っています。これにより、水滴が葉の先端から滴り落ちるまでのプロセスが安定し、効率的な水の排出が可能になっていました。さらに、長い尾の影響を詳細に調査するため、単一の針を使用した実験が設計されました。尾部の長さと基部の幅の比率が水の排出効率にどのように影響するかが評価されました。ボダイジュの葉ではこの比率が最適化されており、水の排出が促進され、水切れが良くなります。葉に留まる水が少なくなることで、植物の葉が損傷やしおれを防ぐことが示されています​​。流量の増加に伴い、水の排出状態が変化しました。水量が多い状態では、滴の体積が徐々に減少し、水滴の発生頻度が高まることが観察されました。この様に、ボダイジュは葉上の水を効率よく排出する機構が備わっていると判明しました。
この形状を模倣した感慨装置(BLAMエミッター)が作成されいました。ただ滴下するだけでは、液滴の切れがまばらで、水は偏った部分に供給されますが、BMAMエミッターを使用すると、水滴の体積が小さくなり、水滴が落ちる頻度が増加します。そうすると水は均一な散布が可能となり、植物の利用できる水の量が増えることに繋がりました。実際に生育も促進されていました。

菩提葉頂点模倣 (BLAM) エミッター誘導による精密点滴灌漑
https://www.nature.com/articles/s41467-023-41673-0

考察:BLAMエミッターの農業への応用とその効果

BLAMエミッターを用いた灌漑システムは、従来の灌漑方法と比較して、砂地での作物成長を促進する効果があります。このシステムは、水滴の高い頻度と小さい体積により、土壌の蒸発を減らし、灌漑の効率を高めます。さらに、小麦、綿、トウモロコシの実験では、BLAMエミッターを使用した灌漑が、これらの作物の発芽と成長を促進することが示されました。このシステムは、水不足と土壌圧縮の問題を軽減し、農業の持続可能性を向上させることが期待できます。

BLAM エミッター点滴灌漑は作物の成長を促進する。
https://www.nature.com/articles/s41467-023-41673-0

まとめ:効率的な灌漑装置の開発が可能。ビジネス展開を考える。

この研究は、自然界のユニークな形状から着想を得た、革新的な灌漑システムの開発を示しています。BLAMエミッターを利用した灌漑システムは、小さな滴の体積と高い頻度によって、水の偏り軽減し、農業の持続可能性を向上させます。この技術は、砂地などの灌漑が難しい地域での作物成長において、効率的な灌漑方法としての可能性を示し、今後の農業において重要な役割を果たすことが期待できますね。
ビジネス展開を考えると、液滴型の潅水装置の先端部などの形状を、ボダイジュ葉形に変えることで、その効果が期待できます。1部だけ見ると小さな改良ですが、施用面積が大規模になれば、たとえ数%でもコスト削減になることで収益は増加します。大規模農業ほど、積み重ねの力で効率化を図る必要があり、今回の様な僅かな改良で数%~数十%の違いを生むプロダクトは十分に需要が見込めるのではないかと思います。
まだまだ、植物の中には可能性が眠っていますね。

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