新開発の電子クライオゲル:伸縮性があって、自己修復可能もあり、植物と同化できる植物生体内モニタリング用デバイス。

研究
https://www.nature.com/articles/s41528-023-00280-1

植物を生育を外から観察する方法は様々ありますが、直接植物内の水や物質の動きを観察することは難しいですよね。植物を非破壊的にモニタリングする事ができれば、研究だけでなく農業分野でも活用できる可能性があります。そんな要件に応えるデバイスが研究され、報告されていました。このデバイスは一見透明なゲルですが、内部に電極がプリントされており、ゲルと植物が触れることで植物のモニタリングが可能です。また、植物に取り付けてもダメージが小さく、長期間の使用が可能のようです。どんなデバイスなのでしょうか。

Self-healable stretchable printed electronic cryogels for in-vivo plant monitoring

ゲル状デバイスの作り方。自己修復できるよ。

報告のゲル状デバイスは、多層構造になっています。まず、ガラス上にPEDOT/PSS(Poly3,4-EthyleneDiOxyThiophene/Poly4-StyreneSulfonate)という伝導性のポリマーでトレース(配線)をプリントします。PEDOT/PSSは近年注目される伝導性のポリマーで、塗工技術で出力するくらい薄い構造が可能で、さらにある程度曲げにも耐えます。また耐熱性が200℃と非常に高く安定性がすぐれている点も利点です。この万能なトレースの上にPVA(ポリビニルアルコール)ハイドロゲルをドロップキャスト法で形成します(ドロップキャスト法:基板に水溶液を滴下して溶媒を加熱蒸発させることで固化析出させる)。次に、植物体と触れる部分を作ります。新たにPVAハイドロゲルをドロップキャスト法で積層し、凍結融解サイクルで架橋させると生体接触面の完成です。このように作られたゲル状デバイスは、下記する植物へのダメージが少なく、さらに自己修復が可能です。少々の断裂で1度伝導性が絶たれても、時間の経過により電気を流すレベルへの修復が可能となりました。

画像下のゲルは架橋したゲル。構造が安定している。
https://www.nature.com/articles/s41528-023-00280-1

植物に取り付けても害が少ない。

作成された電子クライオゲルは植物に取り付けられました。トマトの茎へ縦に切り込みを入れ、このデバイスを差し込みました。この様なデバイスで大事なのは、生体に害を及ぼさないことです。PVAハイドロゲル自体は、コンタクトレンズや人工臓器用の膜として使用されており、生体との相性は良いものですが、使用するさいは強度を高めるために「架橋」することが必要で、一般的な科学架剤は有毒であったり炎症を引き起こすような薬品です。今回つくられた電子クライオゲルの架橋は低温と高温を繰り返すことで架橋する物理的架橋法を使用したため植物にとっても安全な物質となっています。その結果、デバイスを挿入した茎部分の変化は、対照区の切断しただけの別植物の茎部分と大きく変わりませんでした。これはデバイスの挿入が植物に大きな害を与えていないと言う事のようです。

電子顕微鏡で観察した様子。ゲルが刺さってますね。
https://www.nature.com/articles/s41528-023-00280-1

取り付けた植物の何が測れるのか?

植物に取り付けた電子クライオゲルには伝導性のトレースが設置されています。このトレースを使用してインピーダンス分光法という方法による茎の中の電気信号を監視することが可能です。植物が生育する上で、様々な物質のやり取りが行われており、これは電気信号として観察可能のようです。この研究では、トマトにとって大事なカリウムイオンの吸収時の変化を捉えたり、乾燥ストレスに晒したときの電気信号変化を観察していました。その結果、物質吸収や水転移の変化が電気信号として観察され、植物の変化をモニタリングすることができました。おそらく、電気信号として測定できる変化であれば、様々なことがモニタリング可能と考えられます。

肥料を添加した際のイオン変化を捉える。
https://www.nature.com/articles/s41528-023-00280-1

どのように役立てるのか。

この電子クライオゲルは2ヶ月以上も植物に挿入され、その間植物を枯らすこと無くデータを収集したようです。得られたデータを解析すれば、モニタリング可能な項目が増えてくると考えられます。最適化されていけば、即時の植物診断ツールとして機能するかもしれません。 農業分野では、未だに勘や経験に頼っていた栽培技術もたくさんあると思います。この様なデバイスを使うことで、安定した農業生産を実現することが可能かもしれませんね。

その他参考:【素材】プラスチックの常識を変えた 導電性ポリマー「PEDOT/PSS」とは(松尾産業株式会社)

コメント

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