水陸両生植物の環境適応システムが面白い。

研究

水陸両生植物”Rorippa aquatica”

北アメリカの湖や池、小川などで見られるRorippa aquatica(ロリッパ・アクアティカ)は、陸上でも水中でも生育できるユニークな植物です。その特性のため、水槽用の水草としても親しまれています。自然界においてロリッパアクアティカが生育する場所は、水没するような環境であり、度々植物全体が水没してしまいますが、すぐさま環境に適応して生存しています。この水没と排水環境に対し、どの様に適応しているのか、一端が解明され始めています。

https://www.nature.com/articles/s42003-024-06088-7

A chromosome-level genome assembly for the amphibious plant Rorippa aquatica reveals its allotetraploid origin and mechanisms of heterophylly upon submergence

水没1時間で適応が始まり、4日目には葉に変化が現れる。

ロリッパアクアティカの水没後の環境適応がどのように起こっているのか調査されました。陸上で生育しているロリッパアクアティカを水につけます。すると、4日後には若葉の葉の切れ込みが大きくなりました。ロリッパアクアティカは4日間で水中に適応してしまいました。そこで、水につけて1時間の葉と、4日間浸した葉での遺伝子発現を調査しました。その結果、水につけて1時間で、すでに787個の遺伝子の発現が強化され、1091個の遺伝子の発現が低下していました。たった1時間で1800個もの遺伝子の発現が調整されていたことになります。4日目には機能する遺伝子が大きく変化していました。

植物ホルモンによる水中葉への形態変化

ロリッパアクアティカの水中葉は、陸生葉よりも葉身が細く、深く裂けた葉の形をしています。これは植物ホルモンである「エチレン」により誘導されていました。冷蔵庫内で果物などを追熟させる「エチレンガス」と同じものです。ロリッパアクアティカが水没すると、空気の移動が制限されます。その結果、植物内でエチレンが作られ、水中葉の形へと変化します。それを裏付けるために、陸生葉にエチレン前駆体である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)を処理すると、地上にいながら水中葉の様な形になりました。このような結果から、主に水中葉の誘導はエチレンにより誘導されていることがわかりました。

青色光が増えると陸生葉への復帰

水中葉への変化はエチレンガスが合成されることで引き起こされていました。一方で、水中葉が水上へ出て陸生葉へ変化する場合もあります。その場合のスイッチは「青色光」です。青色の光が増えると、エチレンの合成経路を抑制して、水中葉から陸生葉への変化が誘導されます。おそらくですが、水中では光が少なくなりますが、水上に出て十分な光が当たると、特に青色の光を十分に浴びると、陸生葉への変化が起こっているのでしょう。

水陸両生植物の可能性

ロリッパアクアティカの水陸両生の仕組みは、遺伝子レベルで制御されていました。ロリッパアクアティカはこのような特性を持つことにより、他の植物よりも水辺での生育が得意になるため、生き残ったのでしょう。とても複雑な水陸両生のシステムですが、その一端でも掴めれば、その他の植物への応用が期待できます。将来的に、異常気象などでスコールや洪水災害が増えると予想されますが、水害にあっても収量の落ちない植物は重要になってきます。未来に備え、植物の持つ可能性を研究することは重要ですね。

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