“Alternative Protein”代替タンパク質の2024時点でのレビュー

レビュー

代替タンパク質の未来:持続可能な食糧供給への挑戦

2050年までに世界の人口が97億人に達することが予想され、全ての人に十分な栄養を提供するための食料生産が課題となっています。特に、タンパク質の需要が増加して、従来の家畜からの供給だけでは対応が難しいと懸念されています。また、家畜生産は温室効果ガスの重要な発生源であり(牛のゲップとか、糞尿の腐敗ガスとか)、気候変動への影響も指摘されています。これに対応するため、Alternative Protein(AP、代替タンパク質)が注目を集めています。

代替タンパク質は植物由来、昆虫由来、微生物由来、培養肉などの種類があり、ペースはそれぞれですが、研究が進んでいますね。植物由来タンパク質は最も広く受け入れられており、市場の成長も顕著です。しかし、代替タンパク質はまだ市場規模が小さく、製品の特性や価格、消費者の抵抗感などから、一般的にはまだ受け入れられていない状況です。「実際に買って食べた」という人は少ないのでは?

https://www.nature.com/articles/s41538-024-00291-w

さらに、代替タンパク質の生産は、コストの面で課題がまだまだ山積みです。また消費者の多くは昆虫タンパク質や培養肉を「自然ではない」と感じているため、これらの製品を試すことに抵抗を示しています。そのため、代替タンパク質の環境への影響や健康への影響が十分に評価され、消費者に正確に伝えられることが重要です。また、国際的なガイドラインや規制もまだ整備されておらず、これが代替タンパク質の普及を妨げる一因となっています。

今回読んだレビューは、2024年時点での、代替タンパク質の環境影響、利用の課題、将来の傾向や機会を分析しています。科学者や食品業界、行政が代替タンパク質の開発を支援し、世界の食糧安全保障を解決するための一助となるかもしれません。

参考にした文献:Current challenges of alternative proteins as future foods.(Published: 15 August 2024)

代替タンパク質の環境への2024時点での影響は?

代替タンパク質は、従来の畜産と比較して、温室効果ガスの排出や土地利用が大幅に少ないとされています。植物性タンパク質や昆虫ベースのタンパク質は、畜産生産と比べて環境負荷が非常に低く、微生物由来のタンパク質はさらに少ない土地で生産できることが強調されています。

しかし、代替タンパク質の全体のサプライチェーン全体を通じた環境影響を理解できてはいません。このような研究は「ライフサイクルアセスメント研究」とよばれ、例えば、代替タンパク質が作られる過程だけではなく、どの原料を使うか、どこから原料を購入したのか、どこで作り、どこで売るのか、など、考慮しなければならない範囲はとても広いです。植物由来や昆虫ベースのタンパク質の「抽出」には多くのエネルギーが必要で、廃水も発生します。これらの環境負荷を正確に評価して、軽減する技術的な改善が求められています。

また、培養肉や培養魚介類の生産についても、その環境影響はまだ初期段階の研究でしか評価されておらず、カーボンフットプリントやエネルギー消費が大きな課題として挙げられています。特に、培養培地の効率的な利用が今後の環境負荷削減に鍵を握るとされていますが、現在の技術ではまだその目標には遠い状況です。

全体として、代替タンパク質は従来の畜産に比べて環境負荷が低いとされていますが、技術の進展とともにその影響を定期的に評価し、消費者や関係者に正確な情報を提供することが重要だと結論づけられています。

食品業界で代替タンパク質を活用するには?2024年時点での課題。

技術的な課題

代替タンパク質でできた製品は、従来の動物性タンパク質と同じ感覚体験を再現するのが難しく、消費者になかなか受け入れてもらえないのが現状のようです。これは主に、代替タンパク質と動物性タンパク質の分子構造や物理化学的性質の違いが影響しています。

植物性や昆虫由来のタンパク質は、抽出や加工の過程で部分的に変性し、肉のような食感を再現するのが難しいみたいです。高温押し出し技術などが使用されているものの、従来の肉とは異なる食感やジューシーさが欠けていると指摘されています。また、代替タンパク質の製品には、意外と「添加物」が使用されていて、添加物を避けたいと考えるナチュラル志向のトレンドに反するものもあるとか。

さらに、味や風味の模倣も大きな課題です。植物性や昆虫由来のタンパク質は独特の風味を持ち、動物性製品の味を再現するのが難しいとされています。微生物由来タンパク質でも、抽出プロセスや非タンパク質成分の影響で風味が変わりやすいことが報告されています。

培養肉や培養魚介類では、スケールアップが大きな課題です。基本的に、大規模に生産することでスケールメリットを生かしたコストダウンが可能ですが、現在の培養技術・コストでは大規模生産を開始したからと言って、利益が出始めるかは未知数。さらに、大量生産された代替タンパク質にはミオグロビンや脂肪が少なく、色や風味が従来の肉と異なるため、これを補うための技術的改善が必要とされています。

全体として、代替タンパク質を食品として市場展開するには技術的課題は多く、従来の動物性製品に匹敵する品質を達成するには、さらなる研究と技術の発展が求められています。

代替タンパク質の栄養価は?

代替タンパク質の健康面での利点として、飽和脂肪やコレステロールが少なく、食物繊維が豊富であることが挙げられています。しかし、これらの製品は「超加工食品」として分類されることが多く、その健康効果についてはまだ不明な点が多いです。

代替タンパク質製品の栄養プロファイルを分析した研究によれば、動物由来の製品に比べてエネルギー密度が低く、飽和脂肪が少ない一方で、食物繊維が多く含まれていますが、塩分が高いことも多いです。植物性タンパク質は必須アミノ酸の含有量が低く、タンパク質の品質が劣るとされることがあります。一方、昆虫由来や微生物由来のタンパク質は、必須アミノ酸の含有量が動物性製品と同程度ですが、アミノ酸の組成は種や条件によって異なります。

また、動物性製品はビタミンB12や鉄、亜鉛などの微量栄養素の供給源として優れていますが、植物由来や微生物由来の製品、培養肉ではこれらの栄養素が不足していることが指摘されています。これらの栄養素を強化することは可能ですが、その生物学的有効性についてはさらなる研究が必要です。

全体として、代替タンパク質が従来の動物性タンパク質よりも健康的な選択肢かどうかは、今後の科学的証拠と調査が必要であり、現時点では不確かなようです。

安全性はどうなの?

代替タンパク質の安全性に関する懸念点、特にアレルゲンと汚染物質についてはどうなのでしょうか。代替タンパク質が人類にとって安全であるかどうかについては、まだ多くの確認事項が残されています。

アレルゲンの問題:

代替タンパク質製品の新しい「形態」は、既知のアレルゲンと異なる反応を引き起こす可能性が否定できないとされています。植物性タンパク質では、ナッツや大豆がアレルギーを引き起こすことがよく知られていますが、他の新興の植物性タンパク質や昆虫タンパク質についてはまだ十分に解析が進んでいません。昆虫由来タンパク質は、甲殻類アレルギーのある人にリスクをもたらす可能性が指摘されており、微生物由来タンパク質についてもアレルギー反応のリスクが存在します。

汚染物質:

代替タンパク質製品は、製造過程で重金属や農薬、マイコトキシンなどの有害物質に汚染されるリスクがあります。特に植物由来の肉代替品では、マイコトキシンの汚染が報告されており、これが消費者に健康リスクをもたらす可能性があるため、監視が必要です。微生物由来のタンパク質は、微生物が生成する毒性代謝物や望ましくない微生物による汚染が懸念されています。

培養肉や養殖魚介類の安全性:

培養肉や魚介類については、現時点で食品の安全性に関する直接的な評価は少なく、微生物汚染や人獣共通感染症のリスクが指摘されています。培養細胞がストレスを受けると、ヒスタミンなどの有害物質が生成される可能性があり、これが最終製品に蓄積するリスクもあります。

代替タンパク質製品の安全性については、特にアレルゲンや汚染物質に対する慎重な評価が求められます。これらの課題に対処するためには、さらなる研究と規制の強化が必要ですね。

規制の枠組みを作っている最中

代替タンパク質の市場展開のハードルの1つは、国単位やグローバルレベルで明確で透明な基準やガイドラインが欠如していることです。規制枠組みは、消費者の安全を確保し、公正な取引を促進するために不可欠です。

代替タンパク質は、多くの国で「新食品」として扱われ、食品の安全性や成分に関する規制が異なります。EUでは、2018年から新食品法規制(EC 2015/2283)が施行されていますが、米国では特定の新食品の定義や規制がなく、代わりに「食品添加物」として扱われるか、一般的に安全と認識される(GRAS)基準に従っています。アジアでは、中国、韓国、シンガポール、タイのみが新食品に関する具体的な規制を持っています。

シンガポールやタイなどの国々では、代替タンパク質の安全性評価に関するガイダンスが結構具体的に整ってきています。シンガポール食品庁(SFA)は、新成分の安全性評価を義務付け、企業に国際基準に準拠した試験方法を採用する責任を課しています。タイでも臨床研究を通じた安全性評価が求められています。

代替タンパク質の規制枠組みが各国で異なり、特に新食品の定義や安全性評価に関するガイドラインが不統一であることは、代替タンパク質の普及と発展を妨げる要因となっています。消費者が安全かつ情報に基づいた選択を行えるようにするためには、統一された規制と明確なラベル表示が求められています。

代替タンパク質研究開発の展望

代替タンパク質の増加と、それに伴う新しいタンパク質源の創出や技術革新が進んでいます。特に新たなタンパク質源を開拓するのは、栄養品質、技術的特性、アレルギー性などの課題に対応するためにも、重要な研究領域です。

新しいタンパク質源としては、藻類、海藻、水生植物など、成長が早く栄養価が高い新しいタンパク質源が注目されています。例えば、ウキクサ科の水生植物であるWolffia spp.は、9つの必須アミノ酸や食物繊維、ビタミンB12などを提供することができるとされています。また、地元で栽培される在来植物の利用も進んでおり、これは作物の耐性や炭素排出量の削減にも寄与します。海藻を用いたスピンオフ的な研究も興味深く、海藻を用いた家畜飼料は、家畜のゲップを減らし、肉質を変えないまま温室効果ガスを低減するそうです。こういう研究ももっと進んでほしいと思います。

タンパク質の抽出や加工技術も進化しており、超臨界流体抽出や高圧処理などが使用されて、異臭物質の除去や収率の向上が図られています。また、培養肉や魚介類の分野では、遺伝子編集技術や細胞培養技術の発展が進んでいます。発酵技術も、代替タンパク質の原料生産において重要な役割を果たしており、これにより製品の風味や品質の改善が期待されています。

代替タンパク質のアレルギー誘発性や腸内微生物叢への影響など、安全性に関する研究も進行中ですが、まだ多くの課題が残っています。トランスグルタミナーゼによる酵素架橋やタンパク質加水分解がアレルギー誘発性を低減する方法として研究されています。さらに、APの生産過程や最終製品に含まれるアレルゲンや毒素の検出方法の開発が急務とされています。

代替タンパク質のラベル表示や基準については、FAO/WHOを含む国際機関で議論が進められており、新しい食品に対する消費者の安全を確保するために統一された規制が求められています。

代替タンパク質の増加は新しいタンパク質源と技術革新の機会を広げています。わたしたちの食卓で一般的になるのもそう遠くないと思います。そのためにも、安全性や健康への影響を十分に理解するための研究がどんどん進み、適切な規制が設置されることを期待したいですね。

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