月での植物栽培を成功させるためには地球から持っていく微生物が重要。月の土を微生物で処理したら植物栽培に適した土になった。

研究

政府や野心的な企業は月の天然資源を得るための研究開発を進めていますね。人類が将来、長期間・複数人による宇宙ミッションを遂行するためには、信頼できる生命維持システムが必須で、生物学的再生生命維持システム(BLSS)が研究されています。効率的な BLSSは、閉鎖系で水を浄化し、食料を生産し、大気を活性化できなければなりませんが、そのためには高等植物の能力をフルに活かすことが大切です。植物は酸素を作り、老廃物を分解し、食糧ともなる万能なシステムとなります。現在の水耕栽培系を宇宙空間で実施するためには膨大な量の資材が必要なため、長期的かつ持続的なシステムには不向きです。そこで、現地(月面)にレゴリス(微細粒状風化物)で植物栽培ができないか、検討が進んでいるようです。

Phosphorus-solubilizing bacteria improve the growth of Nicotiana benthamiana on lunar regolith simulant by dissociating insoluble inorganic phosphorus

疑似「月の土」とそこから植物の栄養を分離する菌たち。

実際の月の土が使用できれば最良の実験材料なのですが、貴重なサンプルのため、擬似的な月の土が用意されました。月の土の組成や構造は、アポロ14号がサンプリングした月の土で解析されています。この組成に近いものを、地球上で探すと火山スコリア(火山砕屑物)が類似しています。この研究では中華人民共和国吉林省通化市輝南県の長白山地のものが使用されました。 これらの疑似月の土で植物を栽培するために、土に含まれる不溶性無機リンを菌に分解させました。使用した菌は地球上に普遍的に存在するバチルス属、シュードモナス属の菌を使っています。液体培地に少量の疑似月の土を加え、さらに前培養した菌を接種して振盪培養したところ、疑似月の土のリン酸カルシウムが分解され、液体培地中の可溶性無機リン濃度は培養前と比較して212.7~519.7%と、有意に増加していました。疑似月の土を入れても菌たちは元気に増え続けたため、悪影響は小さいようです。

https://www.nature.com/articles/s42003-023-05391-z

菌で処理した月の土で植物を育てよう。

菌によって可給態になったリンが疑似月の土に増えたため、実際に植物をつかった栽培試験が実施されました。試験では、タバコを使っています。菌との培養期間を変更した疑似月の土の複数の試験区に加え、無処理の疑似月の土、さらに一般的な培養土での栽培試験が実施されています。その結果、無処理の疑似月の土では、生育不良となり、これは疑似月の土の物理特性の影響が考えられました。火山性の土壌は低いpHを示すなど、植物に不向きな特性を持つ場合が多いので、その影響かもしれません。一方で、菌で処理した疑似月の土では健全に生育し、特に長期間、菌と混合培養した疑似月の土の試験区では一般的な培養土と変わらない生育を示しました。これらの結果から、月の土は菌とのシナジーにより植物生産に必要な土壌の代わりとして使用できる可能性を示唆します。

https://www.nature.com/articles/s42003-023-05391-z

地球上の菌は偉大だということを再確認。

一般的に、宇宙は死の世界であり、生物が生存できる環境ではありません。月も例外ではなく、生物にとって不毛の土地です。しかし、報告の様に、月の土を地球上に生育する微生物で処理すると、植物の生育に必要な成分を作り出す母材となることがわかりました。おそらく地球も、菌や植物がいなかったら不毛の土地のままなのでしょう。彼らが長い年月をかけて今の地球を作り出しているのだと、その偉大さを再確認しました。宇宙開発時代のスタンダードなテラフォーミングの最初のステップとなり得る研究報告でした。

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