ブドウを使ってレアアースを掘れ!ワイナリーの可能性はワイン醸造だけで終わらないかも。

研究

レアアース元素は私たちの生活に欠かせないものになっています。レアアース元素グループは、周期表の原子番号57のLa(ランタン)から71番のLu(ルテチウム)までの15個の元素で構成されています※。レアアース元素は、ハイブリッド自動車、風力エネルギー用途、充電式バッテリー、携帯電話、照明などの光学用途、MRI、大容量エネルギー貯蔵などに活用され、わたしたちの生活に不可欠であることはさまざまな場所でよく聞かれます。レアアース元素は鉱山から採掘されてきましたが、環境負荷や資源の枯渇問題から、新しい採掘先が常に求められています。その新たな採掘源として、「ブドウ」を使用するという報告がありました。

※(21番のSc(スカンジウム)と39番のY(イットリウム)を含めると17個の場合もあります)

Accumulation of rare earth elements in common vine leaves is achieved through extraction from soil and transport in the xylem sap

レアアースの採掘方法・代替案

現在の採掘方法とその問題点を確認しましょう。一般的で大量に採掘されるのはやはり鉱山です。大量に採掘できる一方で、鉱石からレアアースを抽出する(冶金する)際には強酸性の溶液を使用する必要があるため、有害廃棄物が問題になります。また、取り尽くされた廃坑も問題です。中国の江西省赣州市だけでも、これまでに1億9000万トンの有毒な尾鉱廃棄物が堆積し、15000ヘクタールの森林が破壊され、数百の鉱山が放棄されたと推定されています。 代替案として挙げられるのは、「都市鉱山」からの回収と、「海底堆積物や泥」からの回収です。都市鉱山からの回収はすでに世界中で進んでいますが、リサイクルのため供給を満たすほどの回収は期待できません。また、海底堆積物や泥については、どこの海底でも良いわけではなく、探索に時間とコストがかかる部分が問題点です。 そこで考えられたのが、ファイトレメディエーション(植物による環境修復)に使用される植物からの回収(抽出)です。これまでは「汚染除去」という点で植物が使用されてきましたが、そこには汚染物質が吸い上げられており、レアアースも含まれます。今回紹介している論文では、植物内のレアアース量や動態を確認し、レアアースの回収源として有効であると報告されています。

レアースが取れるブドウ

今回の研究対象の植物は「ブドウ」です。これは特殊な種ではなく、ワインの材料としても知られる一般的なフルーツのブドウです。もともと、非汚染環境でもレアアースを吸収・蓄積することがわかっていましたが、具体的に調査した例はまだありませんでした。そこで、報告では、1年生のブドウ(Vitis vinifera L.)を使用し、栽培土壌にレアアースを含む水耕液を添加し、その蓄積度合いを確認しました。 その結果、ブドウは植物全体にレアアース元素を輸送して蓄積することがわかりました。取り込まれたレアアース元素の種類による差はなく、レアアース元素全体がブドウに吸収・蓄積されていました。また、レアアース元素を添加して栽培した個体は無添加の植物と生育が変わらない点も重要です。これはブドウからレアアース元素を取り出す可能性を示しています。

どれくらい取れて、どうやって取る?

報告で栽培された植物のうち、対照区としてレアアース元素を無添加で栽培した植物は、一般的な畑で栽培される個体と同様のレアアース元素を含んでいると考えられます。そこから計算すると、900mg/haのレアアース元素が回収可能であると推定されました。他の採掘方法との比較は行われていないため、この900mg/haという量がどの程度なのかは明確ではありませんが、論文の筆者らは「ブドウ園は、エネルギー節約と環境に優しい基準を満たす、潜在的に豊富で持続可能な低コストの希土類元素の供給源となります」と記載していますので、利用可能性はあると考えられます。 また、ブドウからレアアース元素を回収する方法も環境の観点から考察されています。先に述べたように、レアアース元素を回収する従来の方法は強酸の溶液を使用するなど、環境負荷が大きいですが、ここでは「バイオ冶金」が提案されています。ブドウの葉を収穫し、溶液(H2SO4、クエン酸、またはEDTA)中に入れると、レアアース元素が溶液に溶け出します。クエン酸については70%を超える効率が得られているとのことで、現在の回収法よりも時間はかかるものの、環境負荷が少ないレアアース元素回収が可能です。

ワイナリーは鉱山併設へ。

ワインの製造プロセスでは、添加剤としてクエン酸や酒石酸が一般的に使用されます。そのため、ワイナリーにとって、バイオ冶金のための溶液を使用する障壁は低いと考えられます。そのため、既存のワイナリーに有機酸槽を設置するだけで葉の収穫・加工が可能となり、コストと環境への影響を考慮したレアアース元素の抽出が可能になるということです。 将来的に、世界中のワイナリーがワインの供給だけでなく、レアアース元素の供給源としても機能すれば、レアアース問題の解決に一助を担う可能性があります。

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