莢が開かないダイズを求めて。ダイズの開裂遺伝子の探索は続く。

研究

ダイズは世界で重要な作物です。ダイズ食品が食卓に並ばない日は無いと言っても過言ではないでしょう。このダイズの収量を左右する課題の1つに「莢の開裂」があります。簡単に言うと、乾燥時の種の飛び散りやすさです。ダイズが飛び散りが減ると、収量が減らず、収穫が楽になるため安定した生産性を担保できます。この性質を左右する遺伝子の最新研究が報告されていました。

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ダイズの莢の開裂問題とその重要性

ダイズは、世界中で重要な作物の一つであり、その生産量と品質は、食料供給や農業経済に大きな影響を与えます。しかし、ダイズの収穫時期に莢(さや)が自然に割れる「開裂」という現象が発生すると、収穫量が減少し、農家にとって大きな損失となります。開裂は野生植物にとっては種を効率よく散布できる繁殖戦略の一部ですが、農業においては避けたい現象です。このため、開裂を抑制する品種を開発することが、ダイズの収穫安定性を向上させるための重要な課題となります。

「Pdh1遺伝子」と「Sh1遺伝子」

Pdh1遺伝子とSh1遺伝子は、ダイズが自然界で種子を広範囲に散布するために進化した遺伝子です。これらの遺伝子の機能により、野生ダイズは莢が開裂しやすくなります。しかし、農業生産においては、種が飛び散り、収穫のコストにつながる「開裂」は逆に不利に働いてしまいます。そのため、これらの遺伝子を適切に操作し、開裂を抑制する方向に進化させることが農業上では重要でした。これまでの育種では、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子の変異を持つ品種が選ばれ、開裂に対する抵抗性を持つダイズの品種改良が進められてきました。

開裂を防ぐためには、遺伝子レベルでの理解も不可欠です。先行研究では、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子が、莢の細胞壁の強度や構造に影響を与え、開裂のしやすさを調整していることはわかっていました。これらの遺伝子に変異が生じることで、開裂が抑制される個体が得られていたからです。しかし、その詳細なメカニズムまでは判明していませんでした。

開裂メカニズムの最新研究

今回報告された研究では、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子が開裂抵抗性にどのように寄与しているのか、その詳細なメカニズムを解明するための実験が行われました。まず、遺伝子組み換え技術を用いて、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子の両方に変異を持つダイズを作成しました。この遺伝子組み換えダイズはPdh1遺伝子とSh1遺伝子の機能が低下しています。この遺伝子組換えダイズと野生型のダイズを比較することで、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子が莢の開裂にどのように影響を与えるのかを詳細に調べることが可能となりました。

まずは、顕微鏡で莢の様子を観察しました。その結果、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子が変異したダイズでは、細胞壁が厚くなり、より強固な構造を持つことが確認されました。このため、莢が外部からの力によって開裂しにくくなり、収穫時の損失が大幅に減少することが明らかになりました。逆に、野生型ダイズにおいてはPdh1遺伝子とSh1遺伝子が機能するので、細胞壁が薄くなり、莢が弾けやすくなっていることを意味しています。

さらに、Pdh1遺伝子とSh1遺伝子が本来機能する「時期」を特定しています。変異のない野生型ダイズのPdh1遺伝子とSh1遺伝子の発現は、「莢の成熟期」にピークを迎え、熟した莢を開裂させるのに効果的なタイミングで機能していることを突き止めました。Pdh1遺伝子とSh1遺伝子が変異した遺伝子組換え体は、登熟期になってもPdh1遺伝子とSh1遺伝子が機能しないので、結果として莢が堅牢になり、種が飛び散らない、という性質につながっているようです。

開裂性の低いダイズ品種の育種につながる

今回の研究報告は、ダイズの開裂抵抗性を向上させるための新しい品種改良のアプローチを提供していますね。Pdh1遺伝子とSh1遺伝子の機能が低下したダイズが、今後一般品種として作成されるかもしれません。

Pdh1遺伝子とSh1遺伝子は莢の堅牢性に関与する遺伝子でしたが、今後の研究では、他の要因が開裂に与える影響を解明することも重要となります。例えば、特定の環境下で開裂性が下がる例などがあるため、その環境要因の特定や、どの様な遺伝子と相互作用しているのかを調査することで、さらに高いレベルでの開裂抵抗性を持つ品種の開発が期待されます。

また、今回の知見はダイズだけでなく、他の作物にも応用可能です。「莢が割れにくい」という単純な特性ですが、その効果は、大量生産が常である現代農業においては計り知れません。莢を持つ作物はダイズ以外にもたくさんありますので、開裂抵抗性の向上は世界中の農業生産における収穫安定性の向上に貢献する可能性があります。持続可能な農業を目指す中で、このような遺伝子レベルでの改良は、食料供給の安定化に不可欠な要素となるでしょう。

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