水面に浮かぶボタンウキクサ(Pistia stratiotes)は、長い根を水中へ垂らし、栄養塩や汚濁物質を取り込めます。2024年の Scientific Reports 論文では、ボタンウキクサを植えた自由水面型の人工湿地で生活排水を処理し、多くの水質項目が改善しました。
ただし日本でこの植物を「排水処理に使ってみよう」と考えてはいけません。ボタンウキクサは外来生物法に基づく特定外来生物で、飼養・栽培・保管・運搬・輸入・野外放出などが原則規制されています。
研究結果としての浄化能力と、日本で実際に利用できるかどうかは分けて考える必要があります。
パキスタンの人工湿地で生活排水を処理

原著の実験はパキスタン・Khyber Pakhtunkhwa州の施設で行われました。生活排水を自由水面型constructed wetlandへ流し、ボタンウキクサを植えた条件で水理学的滞留時間(HRT)10、20、30日を比較しています。
30日滞留で多くの汚濁指標が70〜80%以上低下

30日HRTが最も良好で、研究ではTDS 83%、TSS 82%、BOD 82%、COD 81%、塩化物80%、硫酸77%、アンモニア84%、油脂分74%の低減が報告されました。
根による吸収だけではなく、沈降、ろ過、吸着、微生物反応、固体化合物の形成など人工湿地全体の作用が関与します。「植物が全部吸った」と理解するのは正確ではありません。
処理水は灌漑に使える水準で、飲料水ではない
著者らは処理水が対象地域の環境基準を満たし、植物への散水や作物灌漑へ再利用できる水準になったとしています。一方で飲料用には適さないと明記しています。
また、30日間という長い滞留時間が必要だった点は、実用設備の面積や処理量を考えるうえで重要です。都市下水を高速に処理する一般的な処理場の代替と単純に比較できるものではありません。
ボタンウキクサは世界的に強い侵略性を持つ
ボタンウキクサは熱帯・亜熱帯の水面で急速に増殖し、水路や湖沼を覆うことがあります。密生すると光や酸素環境を変え、在来水生生物や水利用へ影響します。浄化能力が高い植物ほど、栄養豊富な排水環境で大量増殖するリスクもあります。
人工湿地で使う場合でも、流出防止、増殖量の管理、回収した植物体の処分が必要です。
日本では特定外来生物として規制されている
環境省の特定外来生物一覧では、ボタンウキクサ(Pistia stratiotes、茎・根を含む)は特定外来生物で、国内に定着している種として掲載されています。防除も継続されています。
そのため、海外論文で浄化効果が報告されたからといって、日本で個人や事業者が勝手に入手・栽培して排水処理へ使うことはできません。研究・教育など許可制度の対象となる例外はありますが、一般的な実用提案とは別です。
技術として学ぶべきなのは「Pistiaを使うこと」ではなく人工湿地の設計

この研究の価値は、浮遊植物の大きな根系と微生物群集を組み合わせた自然型処理システムの性能を示した点にあります。日本で応用を考えるなら、侵略性や法規制のない植物、既存の人工湿地設計、物理・微生物処理との組み合わせを検討すべきです。
浄化できる植物=使ってよい植物ではない。 環境技術では、処理性能だけでなく、導入後にその生物自体が新しい環境問題を起こさないかまで評価する必要があります。
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参考文献・公式情報
- Ali M et al. Domestic wastewater treatment by Pistia stratiotes in constructed wetland. Scientific Reports. 2024;14:7553. https://doi.org/10.1038/s41598-024-57329-y
- 環境省「特定外来生物等一覧」 https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html


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