フェアリーリングはなぜ輪になる?――菌類と植物の相互作用を数理モデルでほどく

生態・進化

芝生や草地に、キノコや植生の濃淡が円形に並ぶフェアリーリング。2023年の Scientific Reports 論文は、この現象を6本の偏微分方程式からなるprocess-based modelで再現し、古くから提案されてきた複数の仮説を比較しました。

重要なのは、この研究が「自然界のすべてのフェアリーリングの原因を確定した」ものではないことです。モデル上で、どの仮説なら観察されるリング型や植生パターンを再現できるかを検証した研究です。

輪になるには菌自身を抑える仕組みが必要だった

フェアリーリングの模式図
フェアリーリングでは菌糸前線と植生の変化が空間パターンとして現れる。

モデルでは、菌糸が中心から外へ広がるだけなら円盤状に残りやすくなります。ところが、菌の死後に蓄積する自己阻害物質を導入すると、中心部の菌糸が衰退し、前線だけが外側へ進むリング状の分布が再現されました。

著者らはself-DNAを候補の一つとして議論していますが、モデル中の自己阻害物質そのものを野外で同定したわけではありません。ここは「モデルが支持する機構候補」と「実証済みの物質」を分けて読む必要があります。

植物が枯れる帯は土壌の撥水性だけでも再現できた

菌類と植物の相互作用を表す数理モデル
モデルでは菌・植物・水・阻害物質・促進物質・栄養分の相互作用を扱う。

フェアリーリングでは菌糸の前線に沿って植物が弱るタイプがあります。研究では、菌糸マットによって土壌が撥水化し、植物が利用できる水が減るというhydrophobicity hypothesisを組み込むと、観察される複数タイプのリングを再現できました。

一方、菌がphytotoxinを出すという仮説だけでは、すべての型を再現できませんでした。これは毒素が存在しないという証明ではなく、モデル上では土壌水分の変化だけで説明できる範囲が広かったという意味です。

植物が濃くなる帯にはphytostimulantが必要

逆に、菌の周辺で草が濃く育つタイプを再現するには、栄養分の放出だけでなく、菌由来のgrowth-promoting compound、いわゆるfairy chemicalsを想定する必要がありました。

つまり同じフェアリーリングでも、菌の自己阻害、土壌の水移動、植物毒性、栄養分、成長促進物質が組み合わさって見た目が変わる可能性があります。

この研究の価値は「次に何を測るか」を示したこと

自然界で観察されるフェアリーリング
自然界のフェアリーリングには複数の植生パターンがある。

モデルは、菌体量、植物の促進・抑制、裸地帯の幅、リング幅など、野外で測定すべき指標も提示しました。今後、同じ地点を継続観察し、土壌水分・菌量・化学物質を同時に測れば、どの仮説が実際のリングで支配的かを絞り込めます。

フェアリーリングは神秘的な模様ですが、研究として見ると、空間パターンを作る生態プロセスを検証できる面白い実験場です。

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参考文献

  • Salvatori N et al. Process based modelling of plants–fungus interactions explains fairy ring types and dynamics. Scientific Reports. 2023;13:19918. https://doi.org/10.1038/s41598-023-46006-1

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