コロンブスが渡る前のカリブ海で何を食べていたのか糞石から調べてみた。今は食べない予想外の植物を食べていた?

研究

文献に記録されない先コロンブス期の食生活を探る

コロンブスがアメリカ大陸に到達する以前のカリブ海地域で、原住民たちはどのような食生活を送っていたのでしょうか。この地域の文献資料は乏しく、食習慣の詳細は謎に包まれていました。しかし、考古学的、古生物学的手法により、徐々にその一端が明らかになりつつあります。

Edible flora in pre-Columbian Caribbean coprolites: Expected and unexpected data

多様な食用植物の利用が判明

カリブ海地域の複数の遺跡から発掘された糞石(古代人の糞便が石になったもの)を分析した新研究が発表されました。研究者らは糞石から微小な植物遺伝子を抽出、同定することで、イモ、トウモロコシ、キャッサバなどの主要な栽培作物をはじめ、木の実、野生植物など、多様な食用植物を特定しました。

解析された糞石からは、30種類以上の食用植物が検出されました。主要な栽培作物では、イモが最も多く見つかり、続いてトウモロコシ、キャッサバでした。これらはカリブ海地域の主食と考えられていた作物です。一方、予想外な発見もありました。例えば、キビが想定よりも少なく、栽培の痕跡はほとんど見つからなかったのです。キビはアルコール飲料の原料として重要視されていた作物でしたが、食用としてはあまり利用されていなかったことが明らかになりました。

新大陸由来の食材の利用実態

興味深いのは、新大陸由来の食材の利用実態です。トマトやワタなどは、コロンブス到着より前からカリブ海地域で栽培、消費されていたことが分かりました。これは歴史的に重要な知見と言えます。新大陸由来の食材が、いかに早期から普及していたかが実証された形です。

トマトは中南米を原産とする野菜ですが、考古学的証拠からコロンブス到達以前の1493年よりも前に既にカリブ海地域に伝来していたことが裏付けられました。一方、ワタは油料作物として利用され、糞石から最も多く検出された野生植物でした。ワタの利用はコロンブス到達以前から行われていたことを示唆する結果と言えます。

ワタの利用が実証された意義

ワタは種子から採れる油が利用目的で、南北アメリカ各地で古くから栽培されていました。しかしカリブ海地域におけるワタの利用時期はこれまで不明確でした。今回の研究で、コロンブス到達以前からワタがカリブの原住民によって利用されていたことが初めて科学的に実証されました。ワタ油は食用や灯油として重要であり、生活文化の一端を示す証左といえます。ワタの栽培自体も、この地域の農耕の進展を物語っていると考えられます。

食用植物から推定される食生活

発掘された糞石から検出された食用植物から、当時のカリブ海地域の食生活をある程度推定できます。イモ、トウモロコシ、キャッサバなどの主要な栽培作物が主食として重要な役割を果たしていたことは明らかです。一方、野生植物や木の実も利用されており、自然の産物を幅広く食料として活用していたことが伺えます。

糞からわかることはたくさんある。

研究者は、考古学的、古生物学的アプローチによって、文献資料の乏しい地域・時代の食生活実態を推定できることを実証しました。一方で課題も指摘しています。分析された糞石の数が十分でないこと、動物性食料の利用実態が推定困難なことなどです。論文では、今後の研究でさらに糞石サンプルを増やし、解析手法を改良する必要性が述べられています。

科学技術の進展により、文献資料に依存しない、新たなアプローチから過去の生活や文化を照らす試みが各地で進められています。カリブ海地域の食生活解明もその一例と言えるでしょう。考古学、古生物学、遺伝学などの知見を総合することで、より立体的な過去の姿を復元できるはずです。学際的な取り組みによって、人類の歴史がより鮮明になることが期待されます。

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