「オレンジ風味」を作る成分を特定!

研究

みんな大好きオレンジジュースの危機。

オレンジ(柑橘類)は世界でも消費量の多い果物の1つです。飲み物で迷ったら「健康に良さそうだしオレンジジュース」みたいな選び方をする人も多いのではないでしょうか。実際に栄養価も高く、美味しいので世界で親しまれているのだと思います。そんなオレンジですが、生産量が落ちています。日本の輸入先に絞ると、6割がブラジルに頼っています。ブラジルの生産地では、2023年の初めに洪水が発生し、追い打ちのように病害が発生しました。またアメリカの産地でも、大型ハリケーンの発生で生産が激減し、こちらも病害の影響が出ています。現在、オレンジ果汁は世界中で争奪戦となり、取引価格が高騰している状況です。オレンジジュースを買うとき、価格が高い!とか、売り場に並んでないなーなど思いませんでしたか?それ、病害の影響です。

原因の病気は「カンキツクリーニング病(HLB)」です。感染すると果実が成熟しても小さくなり、表面に緑色の斑点が残り、苦い果実となってしまいます。病状が進行すると徐々に衰弱して枝の先端から枯れていき、最終的には木全体が枯れてしまいます。

HLBに強い育種材料…はオレンジっぽくない。

HLBに感染した木を農薬散布などで立て直すのは難しく、もっぱら切り倒して広がらないようにしている状況です。対策として、HLBに強いオレンジを育種で作り出す研究が進んでいます。世界で作られているオレンジ(Citrus sinensis)はザボン(Citrus reticulata Blanco.)とマンダリン(Citrus maxima (Burm.) Merr*.*)の交雑種です。オレンジはHLBに弱いことがわかっており、これが世界的HLB蔓延の原因です。そこで、オレンジにHLBに強い柑橘種、カラタチ(Poncirus trifoliata L.)などをかけ合わせて、HLBに強い品種を作り出そうとしています。

この育種、難しい点がありまして、オレンジがあまりにも世に親しまれているため、交配して病気に強くなった品種の「オレンジっぽさ」が足りないのです。そのため、オレンジを「戻し交雑」して病気に強い特性は残したままオレンジ味に近づけるなど育種が進んでいますが、オレンジは「果樹」なので、種が取れるまでに時間がかかり、有効な品種ができるのに時間がかかります。

そこで研究者は考えました。「オレンジ風味」を特定して、それを持った種だけピックアップすれば良いと。

Chemical and genetic basis of orange flavor

「オレンジ風味」の構成要素。

試験では、フロリダの研究果樹園のたくさんの交配種が用いられました。これらの交配種の実を収穫して、ジュースにします。このジュースを人が試験します。試験した人は、10年以上にわたって柑橘類のジュースの官能試験を行っている方々で、「オレンジっぽさ」を評価するプロです。彼らが評価した果汁の揮発性物質(香り)をサンプリングしてどの様な成分が含まれているか調査しました。

その結果、オレンジの風味に重要な 26 個の化合物を特定しました。特に、7つのエステルがオレンジとマンダリンのフレーバーを分ける要素になっていました。これらの成分が存在すると「オレンジっぽい」ということになります。

「オレンジっぽさ」に関与する遺伝子もついでに同定。

さらに、オレンジ風味を特徴づけるエステル生成に関与する遺伝子が同定されました。その遺伝子はC. sinensis アルコール アシルトランスフェラーゼ1(CsAAT1)です。交配して作られた品種がこの遺伝子を持っていると、より「オレンジっぽい」ということになります。この遺伝子を特定するマーカーが開発されていましたので、実をつけること無く育種結果を評価できます。オレンジ育種のスピードがバク上がりです。

気づかないうちに「オレンジ」が置き換わるかも

「オレンジ風味」構成成分の特定、ならびに関連遺伝子が同定されましたので、今私たちが慣れ親しんだ「オレンジ」に近い味の「病気に強い」品種が作られるのも時間の問題だと思います。いちオレンジジュース好きとして、壊滅的な状況のオレンジ生産状況が一刻も早く好転することを説に願います。しばらくは、オレンジジュースが高級飲料かもしれませんが、いつの間にか「ジェネリック・オレンジジュース」に置き換わっているかもしれませんよ。

それに気づいたとき、どんな気持ちになるんでしょう。でもきっと、そのジュースが美味しいなら育種の勝ちですね。

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