ヒトのリソソーム膜にあるLYCHOS(GPR155)は、コレステロール量をmTORC1へ伝えるセンサーとして働きます。2024年の Nature 論文で高分解能cryo-EM構造が解かれたところ、LYCHOSはかなり珍しい構造をしていました。
一つのタンパク質の中に、植物PIN-FORMED(PIN)オーキシン輸送体に進化的・構造的に近いtransporter-like domainと、GPCR-like domainが融合していたのです。
ただし「植物のタンパク質がヒトの中に存在する」という意味ではありません。LYCHOSはヒト自身の遺伝子GPR155から作られるヒトタンパク質です。植物PINと共通祖先を持つ輸送体ドメインが、動物系統で別の機能へ組み込まれたと考える方が正確です。
LYCHOSはリソソームのコレステロールセンサー
LYCHOSはリソソーム膜に存在し、コレステロールが十分あるとmTORC1活性化を助けます。mTORC1は栄養状態に応じて細胞成長や代謝を調整する重要なシグナル系です。
2024年の構造解析ではLYCHOSがホモ二量体を形成し、N末端側のtransporter-like domain、中央のGPCR-like domain、C末端DEP domainからなることが示されました。コレステロール結合部位はtransporter-like domainとGPCR-like domainの境界にあります。
構造検索で最も近かったのが植物PIN輸送体
研究チームがAlphaFold/PDB全体をFoldSeekで検索すると、LYCHOSのtransporter-like domainに最も高い構造類似性を示したのが植物PIN auxin transporterでした。PIN1、PIN3、PIN8と比較すると、10本の膜貫通ヘリックス、crossover motif、Asn/Pro残基などに強い保存が見られます。
系統解析でも、このドメインは既知のヒトSLC transporterより植物PIN familyと近い関係にあるとされ、論文はLYCHOS transporter domainをhuman orthologue of the plant PIN transporter familyと表現しています。
IAAには結合したが、IAA輸送は確認されなかった
植物PINは主要オーキシンindole-3-acetic acid(IAA)を輸送します。LYCHOSもIAAへ結合し、SPRで約1.6 mMの親和性が測定されました。ただし植物PINの報告値より弱く、PIN8と同じ条件で行った細胞試験ではLYCHOSによる有意なIAA排出は検出されませんでした。
したがって「ヒトLYCHOSも植物と同じようにオーキシンを運ぶ」とは言えません。内因性基質があるのか、そもそもactive transporterなのかも未解決です。
植物とヒトがタンパク質を交換したわけではない
植物と動物は真核生物として共通祖先を持ちます。古い膜タンパク質familyの一部が系統ごとに異なる役割へ進化した例は珍しくありません。今回の驚きは、ヒトLYCHOSの一部分が植物PINと非常によく似た立体構造を保ちながら、リソソームのコレステロール感知とmTORC1制御という動物細胞の機能へ組み込まれている点です。
2025年には別グループからLYCHOSの高分解能構造研究が相次ぎ、コレステロールや脂質との結合、indoxyl sulfateとの相互作用などがさらに解析されています。構造の確かさは増していますが、PIN様domainが実際に何を輸送・感知するかはまだ研究中です。
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参考文献
- Bayly-Jones C et al. LYCHOS is a human hybrid of a plant-like PIN transporter and a GPCR. Nature. 2024;634:1238–1244. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08012-9
- Molecular architecture of human LYCHOS involved in lysosomal cholesterol signaling. Nature Structural & Molecular Biology. 2025. https://doi.org/10.1038/s41594-024-01474-5


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