ブルーベリーは硬いほど良いのか?果実の軟化を制御する遺伝子と、食感・輸送性の関係

青いブルーベリーと植物細胞の模様を組み合わせた文字なし水彩画 植物生理・発生

ブルーベリーを食べたとき、果皮がパリッと弾けて果汁が広がるものもあれば、柔らかく、口の中でほぐれるものもあります。「硬い果実」は輸送に有利そうですが、硬ければ硬いほど、おいしく、優れたブルーベリーなのでしょうか。

2026年10月8日、Frontiers in Plant Science に、果実が柔らかくなる仕組みを調べた研究が発表されました。成熟過程で高い硬度を保つブルーベリー系統を比較し、細胞壁の変化と VcβGAL369 という遺伝子の機能を検証した研究です。

この記事では研究の重要なデータを読み解きながら、食感の好ましさ、収穫後の輸送・保存、加工用途まで視点を広げます。

成熟しても硬いブルーベリー「2017D」

青くなった果実の硬度に約5.4倍の差

Dukeと2017Dの35日から75日までの果実成熟・硬度・咀嚼性・酸度の比較
図1:果実の発達段階と物理特性。Wang et al. (2026), Frontiers in Plant Science 17:1962192. 原著Figure 1. © 2026 Wang, Yu, Ma, Tang, Li and Sun. CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/); https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1962192 。改変なし。

研究グループは、栽培品種「Duke」と、硬い果実を形成する系統「2017D」を同一圃場の共通管理条件で比較しました。開花後35、50、60、75日に果実を採取し、外観、果実硬度、細胞壁成分などを測定しています。

指標Duke2017D
開花後35日(緑色期)の硬度21.27 N28.77 N
開花後75日(青色期)の硬度3.32 N17.81 N
35〜75日の硬度低下率約84.4%約38.1%

75日後には両系統とも青色果実になりましたが、2017Dの硬度はDukeの約5.4倍でした。ここでの硬度は測定装置で果実を圧縮したときの力であり、人が噛んで「5.4倍硬く感じる」という意味ではありません。

図1のG、H、P、Bはそれぞれ緑色期、着色移行期、紫色期、青色期で、35、50、60、75 days post-anthesis(dpa:開花後日数)に対応します。Duke自体は商業的にも比較的硬い果実をつける品種とされており、一般に「軟らかい品種」だと断定すべきではありません。重要なのは、本研究の比較条件下で2017Dが非常に高い硬度を示したという点です。

また、同じ開花後日数や外観色でも、内部の成熟度が完全に同じとは限りません。2017Dは滴定酸度も高く、成熟進行の違いが硬度差に関与している可能性にも注意が必要です。

硬度だけでなく、咀嚼性や組織構造にも違い

Figure 1では、2017Dで咀嚼性、ガム性、復元性などの機械的指標が高く維持されました。果肉の組織観察でも、青色期の2017Dでは比較的連続した組織構造が保たれていました。

ただし、咀嚼性の数値が高いことは、それだけで「おいしい」「歯切れがよい」を意味しません。食感の評価には、果皮の性質、果汁感、甘味・酸味などが関わります。

果実はなぜ柔らかくなるのか――細胞壁の再編成

植物細胞を包む細胞壁は、セルロースを骨組みとして、ヘミセルロースやペクチンなどの多糖が組み合わさった構造です。成熟に伴って多糖が分解・修飾・可溶化され、細胞間の結びつきや組織の力学的性質が変化すると、果実が柔らかくなります。

今回の比較では、2017Dの果実にはヘミセルロースと不溶性ペクチンが多く維持され、成熟後期の水溶性ペクチンはDukeで多い傾向がありました。つまり「ペクチンは多ければ硬い」という単純な話ではなく、細胞壁の中でどのような状態にあるかが重要なのです。

細胞壁の分解・修飾に関係する酵素にも違いがありました。ポリガラクツロナーゼ(PG)は主にペクチン主鎖を加水分解し、β-ガラクトシダーゼ(β-GAL)は細胞壁多糖に含まれるガラクトース残基を切り離します。2017DではPG活性が調査した全段階で低く、β-GAL活性も複数段階で低下していました。

一方で、セルラーゼやペクチンメチルエステラーゼなど、すべての酵素が一様に低かったわけではありません。果実軟化は、一つの酵素が細胞壁を壊すだけの現象ではなく、多数の細胞壁成分と酵素が関わる変化です。水分状態や細胞の膨圧も硬度に影響します。

RNA-seqで絞り込まれた「VcβGAL369」

研究グループは、青色期(開花後75日)の2系統をRNA-seqで比較し、6,168個の発現変動遺伝子(DEG)を検出しました。細胞壁の再編成に関連する50遺伝子を候補として抽出し、発現傾向などからβ-ガラクトシダーゼをコードすると推定されるVcβGAL369に注目しています。

ただし、DEGが6,168個見つかったからといって、それらすべてが硬度を直接決めるわけではありません。RNA-seqはあくまで発現の相関を示すため、候補遺伝子が実際に硬度を変化させるかを検証する必要があります。

発現を抑えると、果実は硬くなった

VcβGAL369の発現抑制で果実硬度が増加した実験結果
図2:VcβGAL369の発現抑制実験。Wang et al. (2026), Frontiers in Plant Science 17:1962192. 原著Figure 6. © 2026 Wang, Yu, Ma, Tang, Li and Sun. CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/); https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1962192 。改変なし。

そこで研究グループは、ウイルス誘導性遺伝子サイレンシング(VIGS)によってVcβGAL369の発現を一過的に抑制しました。処理14日後、対照のTRV:00と比較して、発現を抑えた果実は有意に硬くなりました。

β-GAL活性の低下に加え、セルロース、ヘミセルロース、不溶性ペクチンの増加、水溶性ペクチンやPG活性などの低下が観察されています。

過剰発現では、逆に柔らかくなった

VcβGAL369の過剰発現で果実硬度が低下した実験結果
図3:VcβGAL369の一過的過剰発現実験。Wang et al. (2026), Frontiers in Plant Science 17:1962192. 原著Figure 7. © 2026 Wang, Yu, Ma, Tang, Li and Sun. CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/); https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1962192 。改変なし。

反対に、アグロバクテリウムを利用してVcβGAL369を一過的に過剰発現させると、処理3日後の果実硬度は空ベクター(EV)対照より低くなりました。β-GAL活性は上昇し、水溶性ペクチンの増加や不溶性ペクチンの減少など、サイレンシングと概ね逆方向の変化が確認されました。

同じ遺伝子の発現を下げると硬くなり、上げると柔らかくなる。 この双方向の機能実験が、VcβGAL369の果実軟化への関与を支持する今回の研究の核心です。

もっとも、VcβGAL369が細胞壁多糖のどの基質に直接作用し、他の酵素活性にどう影響するかという分子機構は未解明です。VIGSと過剰発現は処理期間・対照条件が異なる実験であり、両図の硬度の絶対値を直接比較することもできません。

硬いブルーベリーは本当においしいのか?

「硬い果実は輸送に有利」という考えと、「硬い果実はおいしい」という評価は分ける必要があります。

2025年にThe Horticulture Journalで発表された京都大学の研究は、日本の消費者パネルによる34品種のブルーベリー官能評価を報告しています。総合的な好ましさとの相関係数は、次のとおりでした。

官能評価の項目総合的な好ましさとの相関
食感の好ましさr = 0.66
甘味の強さr = 0.58
風味の強さr = 0.42
知覚された硬さr = 0.22

食感の好ましさは総合評価と強く関係する一方、硬さそのものとの関係は弱かったのです。この硬さは人が食べて感じた硬さであり、装置で測定した硬度の値ではありません。また、調査参加者の属性には偏りがあるため、すべての消費者にそのまま一般化はできません。

果皮がパリッと弾ける感じ、噛んだ後に広がる果汁、果肉のほぐれ方、皮の噛み切りやすさ。果実の食感は複数の特性の組み合わせです。機械的な硬度だけで人が感じる食感を十分に表現できないことは、別のブルーベリー官能・機械測定研究からも示唆されています。

今回の2017Dについては人による食味評価は行われていません。Dukeより硬かったとしても、それだけで食味が優れていると結論することはできません。

輸送・収穫・加工では「望ましい硬さ」が違う

生鮮流通で重要なのは、硬さを維持できること

ブルーベリーは収穫後、選果・梱包・輸送・販売までの工程で衝撃や水分損失を受けます。柔らかくなりすぎた果実は潰れや変形、内部損傷が問題となるため、高い硬度は輸送上有利に働く可能性があります。

ただし、収穫時に硬いことと、収穫後に長く硬さを保てることは同じではありません。収穫後には水分損失によって細胞の膨圧が変わり、細胞壁の状態とは別に硬度が低下する場合があります。収穫時の硬度だけでは長期保存後の軟化を十分に予測できないとする総説もあります。

今回の「5.4倍」は樹上で成熟した果実の硬度差であり、保存期間が5.4倍になる、輸送時の損傷が5分の1になる、といった結果ではありません。2017Dで保存性や輸送耐性が優れているかどうかは、今後の実測が必要です。

機械収穫では衝撃耐性が重要

機械収穫では果実が収穫機や受け止め面に接触するため、圧縮硬度だけでなく、衝撃に対する耐性や内部褐変の起こりにくさも重要になります。外観が無傷に見えても内部に打撲が生じる場合があります。品種の改良と同時に、収穫・選果装置を改良することも品質維持には欠かせません。

加工用では硬さ以外の品質が主役になることも

用途特に重要な品質果実硬度の位置づけ
生食食感の好ましさ、甘味、酸味、果汁感適切な硬さが必要
生鮮輸送潰れにくさ、保存性、傷みにくさ重要
機械収穫衝撃耐性、内部損傷の少なさ重要だが単独では不十分
ホール冷凍・果実入り製品形状維持、解凍後の食感、離水製品設計による
ジャム・ピューレ糖酸バランス、風味、色、加工特性生果の硬度は必須の高優先指標ではない
ジュース搾汁率、風味、色、成分他の指標が優先されやすい

ジャムやジュースの原料を考えると、果実は必ずしも硬ければよいわけではありません。一方、柔らかければ何でもよいという意味でもなく、過熟・腐敗による軟化と、正常な成熟に伴う軟化は区別すべきです。

ゲノム編集で「用途に合った硬さ」を設計できるか?

今回の成果は、VcβGAL369が今後の育種研究の標的候補になることを示唆しています。例えば、遺伝子の働きを抑制して成熟後の硬度を維持するという研究が考えられます。

ただし、今回作製されたのはゲノム編集品種ではありません。一過的な発現操作による機能検証であり、安定したノックアウト系統の果実特性や、収穫後の保存性は未評価です。ブルーベリーには類似したβ-GAL遺伝子が多数存在することも、育種設計の際に検討すべき要因です。

さらに、硬度だけでなく、成熟速度、甘味・酸味、果皮の歯切れ、果汁感、収量、保存・輸送耐性などを組み合わせて評価する必要があります。将来的な目標は「最も硬い果実」ではなく、食べ方や利用目的に合った果実品質を実現することかもしれません。

まとめ:果実軟化は必ずしも「悪いこと」ではない

Wangらの研究では、成熟した2017DとDukeの硬度差が約5.4倍に達し、VcβGAL369の一過的発現抑制と過剰発現によって、果実の硬度がそれぞれ逆方向に変化することが示されました。

この結果は、ブルーベリーの果実軟化を制御する分子機構の理解を進めるものです。しかし、硬い果実が必ずしもおいしいわけでも、保存性が高いと証明されたわけでもありません。

果実の軟化は自然な成熟現象です。重要なのは、必要な品質が、必要な場面で維持されること。 分子レベルで果実の硬さを理解できるようになることは、将来の用途別育種につながる可能性があります。


参考文献・原著図のライセンス

  1. Wang B, Yu C, Ma Y, Tang X, Li Y, Sun H. (2026). Integrated physiological and transcriptomic analyses reveal cell wall remodeling underlying firmness retention in a firm-fruited blueberry genotype. Frontiers in Plant Science 17:1962192. DOI: 10.3389/fpls.2026.1962192.
  2. Hiraiwa N, Yamane H, Nishiyama S, Tao R. (2025). Favored Blueberry Fruit Attributes by Japanese Consumers: Preferences and Sensory Evaluation of Blueberry Taste and Texture. The Horticulture Journal 94(2):174–183. DOI: 10.2503/hortj.SZD-017.
  3. Oh H, et al. (2024). Prediction of blueberry sensory texture attributes by integrating multiple instrumental measurements. Postharvest Biology and Technology 218:113160. DOI: 10.1016/j.postharvbio.2024.113160.
  4. Moggia C, Lobos GA. (2023). Why measuring blueberry firmness at harvest is not enough to estimate postharvest softening after long term storage? A review. Postharvest Biology and Technology 198:112230. DOI: 10.1016/j.postharvbio.2022.112230.
  5. Oregon State University Extension Service. Blueberry Cultivars for the Pacific Northwest.

記事中のFigure 1、Figure 6、Figure 7はWang et al. (2026)の原著図です。© 2026 Wang, Yu, Ma, Tang, Li and Sun. 原著はCC BY 4.0で公開されています。

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