気候変動で、ビール醸造に必須の「ホップ」生産が、これまでもこれからも減少しそう。質も低下してるって。

研究

皆さん、ビールはお好きですか? ビールは水とお茶に次いで世界で3番目に消費されている飲料です。中央ヨーロッパでの伝統的なビール醸造は、少なくとも紀元前3500~3100年頃の新石器時代に始まったと言われています。日本でも大手ビールメーカーのビールだけでなく、クラフトビールの広がりが見られ、その人気が伺えますが、世界でもその傾向があり、消費は今後も続くと予想されます。

ビール醸造にあたり、原料となる大麦と水、酵母に加え、ビールの独特の風味を付けるために「ホップ」が欠かせません。ホップはビールの苦味、香り、泡にとって極めて重要であり、殺菌技術が確立するまでは雑菌の繁殖を抑え、ビールの保存性を高める働きがあったとされます。ビールメーカーは独自の風味を求め、ホップの品種改良や生産を続けてきましたが、ホップの生産を振り返ると、気候変動の影響をモロに受けていることがわかってきました。現在までの影響を測り、現在から2050年までにホップの生産がどうなっていくのかを調べた研究がありましたので、見ていきましょう。

Climate-induced decline in the quality and quantity of European hops calls for immediate adaptation measures.

1971年~現在(2018年)まで、生産量とその苦味も減った。

ビール用のホップの生産地は、主にヨーロッパで、ドイツ、チェコ共和国、スロベニアで90%を生産しているようです。研究では主にこの3国でのホップ生産量を見ています。 まず生産量ですが、1971年~1994年(第1期間とします)、1995年~2018年(第2期間とします)の2期間を比較すると、大幅に減少していました。有名な生産地域を上げると、ツェリェで 19.4%、スパルトで 19.1%、ハラタウで 13.7%、テットナングで 9.5% 減少していました。ザテツという地域では生産量は安定していましたが、他のエリアの落ち込みが大きいため、ヨーロッパ全体としては減少していたことになります。 また、収量だけでなく「苦味」も減少していました。ビールの苦味のもとになる「イソα酸」の含有量を2期間で比較すると、ツェリェで 34.8%、ハラタウで 15.6%、テットナングで 15%、スパルトで 11.5%、ザテツで 10.5% 減少しました。 第2期間が第1期間の平均収量を上回ったのは、スパルトで1回、ツェリェで2回だけ。同様に、第2期間の平均アルファ含有量が第1期間を超えたのは、ツェリェで1回、テットナングで2回だけという結果でした。

https://www.nature.com/articles/s41467-023-41474-5

収量と苦味の減少の要因は気候変動

上記のようなホップ収量の低下と苦味成分の減少は、主に気温の上昇、それに付随する生育期間の前倒し、降水量の変化が要因のようです。苦味成分であるイソα酸の含量は、温度の上昇に反するように減少していました。また生産量は日照時間と降水量によって左右され、水不足になると生産量が下がります。降水量が15%増えるまでは生産量が増加しますが、それ以上の降水は日照不足に繋がり、生産量に影響するようです。2006年には、高温と日照時間の影響で、すべての調査地域で生産量が減少し、イソα酸含有量も急激に低下したとされています。 このように、ホップは気候変動の影響を多大に受けており、年々その生産量とクオリティを下げていると考えられます。

https://www.nature.com/articles/s41467-023-41474-5

2021年~2050年のホップ生産を予想する。

では、これからのホップ生産量、クオリティはどのように変化していくのでしょうか。研究では生育期の降水量と温度の違いに基づいて、収量とイソα酸含有量の変動をシミュレートするモデルを開発しました。 その結果、2021年~2050年のモデル予測では、1989年~2018年と比較した場合、ホップ収量が4.1~18.4%減少することが示唆されました。アルファ含有量についても20~30.8%の減少が予測されています。最も顕著な減少が見られると予想されるのは、ドイツ南部とスロベニアの南部のホップ栽培地域(テットナングとツェリエ)です。主に気温の上昇と、頻繁に発生するであろう深刻な干ばつが、ホップの生産量低下、クオリティ低下を引き起こすと述べられています。

https://www.nature.com/articles/s41467-023-41474-5

モデルの正確性を上げる、対策をとる。

研究により予測される未来のシナリオには、不確実性が伴います。例えば、CO₂濃度の上昇は、光合成の効率を高めることで、水の利用効率を改善し、干ばつの影響を部分的に軽減することで収穫量に好影響を与える可能性があります。しかし、ホップに関する研究はまだ不足しています。また、高収量で高いイソα酸含有量を持つ品種の開発も期待されています。これらの不確実性を考慮し、更なる研究が必要です。これは、ホップ生産にとっての一筋の光とも言えます。 現在、南ヨーロッパでは干ばつが高い確率で発生すると予想されています。そのため、国際市場の需要を満たしつつ危機に対応するためには、現在のホップ栽培面積を20%拡大する必要があるとされています。しかし、同時に求められている低負荷で持続可能な農業を実現するためには、単純な栽培面積の拡大だけでは不十分です。 今後も、世界がビールを求める限り、ホップの生産は不可欠です。新たな解決策を世界的な規模で模索する必要がありますね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました