ビールの苦味と香りを支えるホップは、気温と水分条件に敏感な多年生作物です。2023年の Nature Communications 研究は、ドイツ・チェコ・スロベニアの主要なアロマホップ産地について1970年代以降の変化を解析し、2021–2050年の収量とα酸含量をモデル予測しました。

まず用語:ホップに含まれるのはα酸
旧記事ではホップ中の苦味成分を「イソα酸」と書いていましたが、ここは修正が必要です。ホップ毬花に含まれる主要な苦味前駆体はα酸(alpha acids)です。醸造時の煮沸でα酸が異性化し、ビール中の主要な苦味成分であるiso-alpha acidsになります。
今回の研究が測定・予測したのはホップ毬花中のalpha contentです。
1971–1994年と1995–2018年を比べると収量が低下

研究対象の5地域では、後半期間の平均収量がCeljeで19.4%、Spaltで19.1%、Hallertauで13.7%、Tettnangで9.5%低下しました。一方、Žatecでは収量はほぼ安定していました。
α酸含量も5地域すべてで低下し、Celjeでは34.8%、Hallertau 15.6%、Tettnang 15%、Spalt 11.5%、Žatec 10.5%の減少でした。
温暖化で生育ステージが前倒しされた
1970–2018年の間に生育開始は約13日早まり、毬花発達の時期も地域によって13–31日前倒しされました。これによって重要な成熟期がより暑い時期へ移動し、高温がalpha contentへ悪影響を及ぼす構図が示されました。
収量は主に生育期の降水不足、alpha contentは毬花形成期の高温と強く関連していました。
2021–2050年:収量4.1–18.4%、α酸20–30.8%減の予測

1989–2018年をbaselineとして、2021–2050年には主要5地域でホップ収量が4.1–18.4%、alpha contentが20–30.8%低下するとモデルは予測しました。alpha yield(面積あたりα酸生産量)は25.3–39.5%低下する予測です。
EU・英国の59地点へ広げた解析でも、主要産地で収量・alpha contentの低下傾向が予測されました。
数字は「2050年の確定値」ではない
この予測はCMIP5の3つの全球気候モデルとRCP4.5を使っています。2026年現在はCMIP6やSSPシナリオが広く使われていますが、この論文の数値が自動的に最新版へ置き換わるわけではありません。
したがって4–18%、20–31%という数字は、特定のモデル・シナリオ・回帰関係に基づく研究結果として読む必要があります。将来の品種転換、灌漑、栽培地移動、CO2効果などで実際の値は変わります。
適応策はすでに研究対象になっている
論文は、より冷涼で水分条件の良い場所への圃場移動、灌漑、畝方向や栽植密度、耕起削減、cover crop、耐暑・耐乾燥品種育成などを適応策として挙げています。
特にホップは“収量だけ”でなく香味成分が商品価値を左右します。気候適応はkg/haを守るだけでなく、α酸や精油組成を含む品質を安定させる問題です。
この研究は「2050年にビールが飲めなくなる」と予言したものではありません。むしろ、現在の品種・産地・管理方法を固定したままでは品質と量の両方にリスクがあることを定量化した研究です。
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参考文献
- Mozny M et al. Climate-induced decline in the quality and quantity of European hops calls for immediate adaptation measures. Nature Communications. 2023;14:6028. https://doi.org/10.1038/s41467-023-41474-5


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