生活排水の浄化方法
現代の生活排水の浄化は、一般に物理的・化学的・生物学的処理プロセスを通じて行われます。物理的処理には、沈殿やろ過が含まれ、汚水から固形物や大きな粒子を除去します。化学的処理では、消毒や化学反応を用いて有害物質を分解または無害化します。生物学的処理では、バクテリアや他の微生物を使用して有機物を分解し、水質を改善します。これらのプロセスは組み合わせて使用され、より効果的な浄化を各自治体が行っている状況です。
生活廃水が自然に与える影響は決して小さくありません。なので、様々な浄化方法が確立されているわけですが、更に植物の力を借りて浄化効率を上げよう、そんな研究が報告されていました。
使うのは「水草」のみです。しかし、その水草、「札付き」です。
Domestic wastewater treatment by Pistia stratiotes in constructed wetland
特定外来生物「ボタンウキクサ」を使った生活排水浄化
ボタンウキクサ(Pistia stratiotes)は、南アフリカ原産の多年生の浮遊植物です。葉はロゼット形で、水面に広がり、根は水中に吊り下がります。
実は、日本では特定外来生物であり、「日本の侵略的外来種ワースト100」に指定されています。 日本においては、1920 年代に観賞用として沖縄・小笠原に導入され、1990 年代に西南日本で異常繁茂が問題になり始めたくらい、生育力が旺盛です。現在も、増えてしまったボタンウキクサの防除に四苦八苦している河川流域や自治体が多いです。
悩ましい存在ではありますが、今回紹介するパキスタンの研究では、その生育力を逆手に取って、廃水から栄養素や有害物質を吸収し、水質を改善させよう、というのが狙いです。
ボタンウキクサの浄化力がすごい
生活排水を貯めた池を用意して、そこにボタンウキクサを投げ込みます。約1ヶ月の後、どれくらい水質が改善したかというと…。
総溶解固形物量(TDS)が83%、全浮遊物質量(TSS) が 82%、生物化学的酸素要求量(BOD)が82%、化学的酸素要求量 (COD)が 81%、塩化物が80%、硫酸塩が77%、NH3が84%削減されました。難しい項目が並んでいますが、きれいな水ではこれらの項目は低量でしか存在しません。なので、ボタンウキクサによる浄化により、生活廃水の水質が劇的に改善されたことを示しています。
また、排水中のオイルとグリスは 74% 削減されました。さらに、目に見える部分でも、排水の色・臭気も大幅かつ効果的に改善されました。ボタンウキクサの根は水中に伸び、その表面に菌叢を作ります。根の周りで生存する微生物が油分や臭いの素を分解したと考えられます。色についても、根が排水中の微粒子を捕まえることで改善した様です。
ボタンウキクサ、存在が余すこと無く水質改善に向いている性質を示しますね。すごい。
植物の特性を「上手く」活用する。
前記したように、ボタンウキクサは日本においては特定外来生物であり、河川や湖などきれいな水源に発生すると逆に水質を下げてしまうこともありますので、除去対象とされています。一方で、今回の例のように、垂れ流しの生活排水のような過酷な汚染環境であれば、水を浄化する方向に機能するため、ボタンウキクサの浄化システムが適していると言えます。また、生活排水を貯めたところにボタンウキクサを投げ込むだけでよく、余計なコストがかからない点も魅力的です。1次浄化的な使い方であれば、かなりの効果が期待できるということですね。
一方では嫌われ、また一方では活用されるボタンウキクサ。時と場合で植物の価値は変わります。視点を変えると、植物の価値はまだまだ見つかると思いますね。
皆さんの意見もお聞かせください。
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