10月に入り、気温が下がってきました。大変過ごしやすく、また、行楽シーズンでもあります。今年は彼岸花を愛でにお出かけしてみてはいかがでしょうか?彼岸花、すごいんですよ?
その形がクモの形に似ていることから、英語では”Red Spider Lily”と呼ばれ、美しい赤い花の彼岸花(Lycoris radiata)をみなさんも見たことがあるのではないでしょうか。この彼岸花に含まれるアルカロイドは新薬の源として広く研究されています。
アルカロイド:植物に主に見られる窒素を含む有機化合物です。多くのアルカロイドは医薬品や毒としての活性があります。コーヒーのカフェインやモヒートのキニーネ、タバコのニコチンなど、日常生活で摂取することのある成分の中にもアルカロイドは存在していますよ。
アルカロイド-Wikipedia
彼岸花はヒガンバナ科に属しており、このファミリーの植物はさまざまな薬効を持つアルカロイドを生産します。そして、その中で特に注目すべきは「ガランタミン」という成分です。この成分は、アルツハイマー病の治療のために米国食品医薬品局(FDA)や欧州登録局によって認められています。
しかし、天然のガランタミンを取得するのは難しく、収量が非常に低いため、研究者たちはこの貴重なアルカロイドの生合成経路を解明しようとしています。彼岸花自体は、抗癌、抗マラリア、抗菌などの多岐にわたる効果を持っているとされ、その多様な二次代謝産物の研究は進んでいますが、ガランタミンの合成経路などはまだまだ未知数です。
最近のトランスクリプトーム研究から、彼岸花のゲノムや生物学的特性が詳細に明らかにされました。その結果、今回話題にしているガランタミンの生合成メカニズムや、その生産における気候や環境の影響が解明されつつあります。具体的には、GC-TOFMSベースの代謝プロファイリング、RNA-Seqをを用いた発現解析を行うことで、彼岸花中のガランタミンの複雑に絡み合った生合成プロセスが少しずつ解きほぐされているようです。
Transcriptome Analysis and Metabolic Profiling of Lycoris Radiata
トランスクリプトーム研究:遺伝子の発現を全部見てしまえ!という研究です。
トランスクリプトーム – Wikipedia
彼岸花に含まれるガランタミンの発見は、自然の中にはまだまだ未知の「人にとって」有望な成分が眠っていることを示しています[^4]。アルツハイマー病をはじめとする難病の治療への新たな一歩として、この美しい赤い花からの贈り物に期待が寄せられています。
GC-TOFMS:飛行時間型質量分析計。物質をぶん投げて、飛距離とか滞空時間を測定することで物質を特定します。
TOF-MS-Wikipedia
次に彼岸花を見るとき、その裏に隠された医学的な可能性を少しでも感じてください。彼岸花の研究は、今回紹介したアルツハイマー病だけでなく、他の多くの疾患に対する新しい治療法の開発へつながる可能性があります。赤に染まる彼岸花が近い将来治療薬の元になっているかも知れませんよ。
植物の成分の中には、なんでそんな成分をもってる?と言われるものもたくさんあります。中には生存競争に不利に見える場合も。植物はまだまだ謎が多いのです。
最後に、彼岸花を栽培してみませんか? 流石に個人でアルカロイドを活用することは無理ですが、アルカロイドに思いを馳せながら、赤い花を見るのも悪くないですよ。
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