牛のゲップからメタンを減らせ!
お肉を生産するには、温室効果ガスが大量に出るのを知っていますか? 例えば牛のゲップからや、家畜の糞尿が発酵する際にメタンガスが発生します。過去40年間で、畜産物の世界の1人当たり消費量は倍増し、現在、畜産部門だけで人為的な温室効果ガス総排出量の約14~15%を占めています。今後も継続的にお肉を食卓に並べるためには、環境負荷を低減しながら生産を行う必要があります。端的に実現できることとしては牛の「ゲップ」を減らすことです。
牛は草食であり、自身で持つ「発酵槽」である4つの胃で草を発酵させることで菌を培養し、菌体をタンパク源とすることで筋肉を発達させます。発酵は食べたものを資源として行われるため、餌をコントロールすることで放出ガスを制御可能と考えられています。近年、様々な飼料が開発され、畜産からの温室効果ガス低減が図られています。
タンニンを含む植物を牛のエサとして使用する
では、どのようなものを食べさせるとゲップ中のメタンなど温室効果ガスが減るのでしょうか。牛へのストレスを考慮すると、「牧草としても馴染みのある植物」が最適です。その中でも「タンニン」を多く含む植物が最適です。タンニンは、飼料成分と安定した複合体を形成します。その結果、体内発酵中のアンモニア生成を減らし、気体として逃げていく窒素を抑制することで効率よくタンパク質を生成できます。また、タンニンを多く含む植物は炭水化物比率が低く、メタンガス生成が起きにくいとされています。
タンニンが多く含まれる牧草としては、黄色い花が可愛いミヤコグサの仲間やサラダバーネット、アカバナオウギが挙げられます。これらは既に牧草として馴染みのある植物ですので、畜産においても取り入れやすいはずです。
余談ですが、これらの植物の発酵への影響を調べるために、牛の胃液(ルーメン液)を牛から採取して、牛の体外で発酵を再現して評価していました。胃液を取られるのを想像して、オエッとなりました。科学の発展には犠牲がつきものです。ありがとう牛。
高タンニン植物は肉も増やす!
温室効果ガス低減を狙った高タンニン植物の餌ですが、副産物として筋肉増産にも繋がります。上に書いたように、タンニンは飼料成分(タンパク質や繊維など)と安定した複合体を形成します。そうすると、体内発酵中のアンモニア(NH3)生成を減らし、気体(ゲップ)や液体(尿)として逃げていく窒素(N)を抑制することで効率よくタンパク質を生成できます。窒素はタンパク質の構成物質として大量に必要なので、ロスが少ない分タンパク合成が促進されるというメカニズムです。
また、高タンニン植物を食した家畜は、ガスの発生も抑えられるため膨満感を感じにくく、食餌量が増加します。よく食べる牛はよく育つので、この点も畜産に有利に働きます。
現場レベルでは、どのように給餌するかも課題
環境負荷を低減しつつ、肉量も増やせる可能性がある高タンニン植物は、畜産業界でスタンダードにしていってほしいです。ミヤコグサ類などはすでに牧草として活用されていますが、効果を十分に活かすには、食餌中の高タンニン植物を増やす必要があります。放牧地に生えていれば牛が勝手に多く食べてくれるというわけではありませんよね。何らかの形で牛に多く食べてもらわなくてはなりません。刈り取った高タンニン植物を食べさせるとなると、コストが発生します。さらなる環境負荷の低減材料を探しながら、給餌など技術的な課題を解決していくことも同時に達成が必要と考えます。
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