乾燥した環境下で生き抜く砂漠の植物たちは、長年の進化の中で獲得した独自の形態的・構造的特徴によって、上手く水分を確保する術を身につけてきました。
その代表例が、ナミブ砂漠に自生するブッシュマングラスです。この植物は細長い形状の葉を持ち、葉の表面には微細な突起が無数にあります。そこに霧の粒が付着し成長していき、さらに葉の形状が重力に従って水滴を効率よく幹に流し込む役割も果たしています。
一方、奇妙な形状をしたサボテンも、霧の水分を巧みに集めています。三角コーン状の棘が一方向に傾いた構造になっており、この形状が霧の粒を捕集するのに適しています。捕まえた水滴は次第に成長し合体していき、やがて重力に従って幹の方へと流れ落ちていきます。
このように砂漠の植物は、乾燥した過酷な環境下で生き残るために、水分を確保する仕組みを進化の過程で身に付けました。
一方で、ナミブ砂漠の甲虫の背中にある独特の凹凸模様も、露の水分を集めるのに役立っていることが分かっています。この甲虫の背中から着想を得た研究チームは、植物と昆虫の両方の機能を合わせ持つ、全く新しい水分収集用の構造体を開発することに成功しました。
その鍵となったのが、超撥水(SHB)と超親水(SHL)の異なる濡れ性を組み合わせたナノ構造パターンです。ブッシュマングラスのような細長い形状の部材に、このパターンを設けることで、驚くべき水分収集効率を実現しています。
SHL部分では霧の粒をキャプチャし、SHB部分ではその排水を促進する、という役割分担があります。さらにSHLとSHBの面積比を最適化することで、従来比で42%もの収集効率向上を果たしています。
そして何よりも驚くべきは、この新しい構造体が腐食や紫外線にも強い耐久性を持っている点です。つまり、屋外での実用化に向けた大きな一歩となりました。
自然の中には未だ多くの宝物が隠されています。生物の持つ優れた機能に学び、それを工学的に活かすことで、水資源問題への新たな解決策が見つかる可能性があります。
植物や虫から多くを学び取った今回の研究成果は、その端緒に過ぎません。この分野での更なる研究が重ねられ、干渉に強い水分収集デバイスが実用化される日が来ることを期待したいと思います。水は人類の生存に欠かせない資源です。この課題に向き合い続けることが重要ですね。
コメント
[…] 以前にも生物模倣の論文を紹介しました(植物と虫の合せ技「生物模倣」で霧を集める。)。生物の構造やシステムは未解明な部分はたくさんあります。これらを解き明かして利用することで、わたしたちの生活がより良くなっていくのではないでしょうか。 […]