トウモロコシをめっちゃ加熱した。ポップコーンのその先は、カーボンナノチューブでした。

研究
カーボンナノチューブ(CNT)の可能性と課題

カーボンナノチューブ(CNT)は炭素のみで構成された直径がナノメートルサイズの円筒状の物質です(1)。CNTは非常に安定な物質で、密度がアルミニウムの半分程度と非常に軽いにもかかわらず、強度が鋼の約20倍あります。また、高い電流密度耐性があり(銅の1000倍以上)、さらに銅よりも高い熱伝導性を備えています。さらに、微細な構造により表面積が非常に大きいことも有用な特性となります。

これらの特性から、CNTはエネルギー貯蔵材料、センサー、ナノ複合材料、水浄化などの現代技術に深く関わっています。一方で、CNTを作るには高エネルギーまたは化学的なプロセスが必要で、環境や人体への影響が懸念されています。これらの課題を解決するために、天然成分からCNTを合成する研究が進んでいます。

引用文献:https://www.nature.com/articles/s41598-024-65893-6

トウモロコシからCNTを作る

今回紹介する研究では、ポップコーンの材料であるトウモロコシの種子が使われています。トウモロコシの種子が選ばれた理由は、炭素含有量が高く、炭素原子が組織化してアミロースとアミロペクチンが生成されるためです。この材料を還元媒体内で熱処理すると、酸素含有基の除去が促進され、グラファイトナノ構造が形成されます。実際に、本研究では、水素ガス中で高温(800、900、1050℃)で加熱することで、ポップコーン状となり、さらに加熱すると表面にCNTが合成されました。この方法では、トウモロコシ種子という天然物を用い、触媒に有害物質を使わないため、自然や人体に低負荷で安全な方法となります。興味深いことに、加熱する温度でCNTの形や特性が変わっていました。これは、CNTの作り分けの可能性を示唆しています。

https://www.nature.com/articles/s41598-024-65893-6
トウモロコシ由来CNTの特性

CNTはトウモロコシの表面に形成されます。高温処理により、揮発性ガスが組織内に発生し、細孔から自己押し出されることによってトランペット状のカーボンナノチューブが成長します。円筒状の構造により表面積が格段に増加し、1050℃で加熱した際に作られたCNTの表面積は1グラム当たり710平方メートルという途方もない広さになります。処理する温度で形成されるCNTの形が変わります。例えば900℃で加熱した場合は、大きなチューブから小さいチューブがたくさん出るような形になり、800℃ではCNTでできたケージ状の構造が合成されます。これらの構造は特性が異なり、応用分野が異なるため、用途に合わせて最適なCNTが作れる技術は画期的です。

https://www.nature.com/articles/s41598-024-65893-6
天然由来CNTが一般的になる?

CNTの研究は日進月歩であり、新しい使い方が模索されています。すでに表面積や吸着性を活用した浄水やエネルギー貯蔵の分野で活用されています。また、CNTを用いた植物形質転換等も研究されており(2)、用途は日々開拓されています。しかし、CNTの合成には高エネルギーが必要であり、合成時の人体への影響も懸念されます。天然物から化学物質を使わない今回紹介した方法は、今後のCNT合成のスタンダードになるかもしれません。微細すぎて馴染みの薄いCNTですが、ポップコーンの親戚だと思うと、親しみやすい気がします。今後の発展が楽しみです。

(1) https://unit.aist.go.jp/ncdrc/ja/news/CNT in brief.pdf

(2) https://www.nature.com/articles/s41467-022-30185-y

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