「木材」を3Dプリントする。

研究

「木材」を作るには木を育てるしかなかったが…

天然木は何千年もの間、建物や家具として人の生活に欠かせないものです。長い年月をかけて形成される「木」は構造物に欠かせない硬さや加工のしやすさを持っています。基本的に木材を得るには、木を育てて、ほしい形に切り出すことが必要ですが、円柱状の木を角材として使うだけでロスが発生します。これらを組み合わせて作った、バルサ材のような集合材もありますが、接着剤を使用しているため壊れやすかったり、弾性が足りなかったりと、課題があります。

そこで研究者たちは考えました。木材を3Dプリントでいないかと。

Three-dimensional printing of wood

3Dプリント木材の作り方

木材の最小の微細構造成分はミクロフィブリルと呼ばれ、リグニンで覆われた結晶領域と非晶質領域の両方を持つセルロース鎖の束です。その組成には、補強材としてセルロース系炭水化物(約70%)、連続相としてリグニン(約25%)が含まれており、その他の微量成分も含まれています。

3Dプリント木材は天然木の組成を模倣してリグニン、結晶セルロース、非結晶セルロースで構成されています。これらの混合物を水と混ぜて細い先端を持つシリンジから押し出して形を作ります。押し出し形成しただけのプリント木材は水を含んでいて脆く、結晶構造も取っていません。そのため、凍結乾燥で水分を飛ばし、更に180℃で加熱することでリグニンが溶けて再結晶化します。これにより水が抜けた穴が埋められ、硬い構造体が作られます。また、加熱の際に加圧することで密度が増してより「天然木材」に近いプリント木材が作られました。

From: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk3250

3Dプリント木材のすごい特性

こうして作られたプリント木材は、天然木に遜色ない特性を持っていました。加圧されて作られたプリント木材は天然木材に似たしなりを持っており、天然バルサ材に比べて破断係数が2倍、曲げ弾性も1.5倍ありました。これだけで、集合材よりも木材に近い特性があることが伺えますね。

また、押し出し時の解像度はなんと「200μm」です。木材から立体物を作る場合は「彫り出す」ことになりますが、プリント木材であれば「成型」することも可能となり、より複雑な形を作ることも可能かもしれません。

木材以外の原料から「木材」を作れるようになる。

プリント木材の特徴として「原料が木材由来でなくても良い」という点が挙げられます。プリント木材の材料はリグニンとセルロースです。これらの成分は木材からしか取れないわけではありません。リグニンは綿や麻などの維管束植物からも採取可能です。セルロースは細菌や被嚢類などの生物によって生成されたものや農業廃棄物から採れます。これらを使うことで、木材の生育スピードを無視してプリント木材を作ることも可能となります。

課題はエネルギーコスト

プリント木材の短所は、現時点ではエネルギーコストが高いことです。凍結乾燥には低温処理のためのエネルギーと減圧のためのエネルギーが必要です。その後の加圧、加熱工程もエネルギーを必要とします。コスト低減の研究が進めば、容易に欲しい木材をほしい形で得られるため、需要は高いと思いますが、今はまだ木を使ったほうが低コストのでしょう。

昨今では家も3Dプリンターで出力することが可能となりましたが、使われている建材はセメントです。プリント木材の研究が進めばセメントの代わりにプリント木材を使用して、3Dプリントログハウスも実現可能かもしれませんね。

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