農産食品産業廃棄物から作った堆肥中には「植物ホルモン」が結構入ってる。栄養だけじゃない恩恵。

研究

農業バイオ分野に欠かせない「植物ホルモン」

植物ホルモンは植物体内で分化や生育制御しています。様々なホルモンが確認されており、植物ごとに異なる組成となっています。組織培養分野においては、外から与える植物ホルモンの種類や濃度を制御することで、カルスを誘導したり、カルスから芽を出させたり、根を出させたりと、無くてはならない存在です。また、農業分野においても挿し木に使う発根誘導剤や、種無しブドウを作る際に使用する薬品などは植物ホルモンを主成分にしています。また、農薬の一部(除草剤など)も植物ホルモンで構成されています。

農業、バイオ分野で不可欠な植物ホルモンですが、基本的には科学的に合成されたものがコストが低く、多用されます。一方、食品残渣等からできる有機堆肥中にも植物ホルモンが存在しており、その構成が様々であることがわかってきました。

Occurrence of plant hormones in composts made from organic fraction of agri-food industry waste.

堆肥中の植物ホルモン

農産食品産業廃棄物は、農業や食品加工の際に出た不可食部分になります。農産食品産業廃棄物の例としては、そば殻、籾殻、麻の綿殻、さらにリンゴの絞り粕や、脂を取った油脂類残渣などです。人が食べることは難しいですが、有機物を豊富に含んでいることから、堆肥にすると植物にとって良い栄養源となります。そして、様々な植物ホルモンを含んでいることがわかってきました。

これらの堆肥から抽出したエキスを液体クロマトグラフィーという装置にかけると、堆肥に含まれる成分が解析できます。解析の結果、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、ブラシノステロイド、アブシジン酸、サリチル酸の6種類の植物ホルモンに属する35種類の化合物が堆肥中に存在することが確認できました。また、元になった農産食品産業廃棄物によって、構成は異なっていました。上記した6種類に大別した植物ホルモンは、植物の生育や分化において異なる反応を誘導します。つまり、堆肥ごとに得意な生育パターンがあるということであり、園芸や農業において天然の植物成長促進剤として活用する、新たな活用方法が模索できそうです。

From: https://www.nature.com/articles/s41598-024-57524-x

カスタマイズにより付加価値をつけられそう。

農産食品産業廃棄物を元にした堆肥中には豊富な植物ホルモンが含まれており、そしてその組成は多様です。現在までの研究で、植物ごとに発根や枝分かれ、開花や着果などに不可欠な植物ホルモンやその組成が判明しています。これらの結果と堆肥中の植物ホルモン濃度を比較することで、特定の植物の、特定時期(例えば芽生え時期、開花時期、着果時期など)に最適な「有機肥料」を提案する新しいビジネスモデルが可能かもしれません。

このようなビジネスモデルを日本で(世界で)実施する場合に検討が必要な点として、肥料に関する「法規制」があるかと思います。日本においては、肥料販売の法規制は厳重です。肥料の作成は「発酵」を経るため、正しい管理を行わないと有害物質が合成されます。作られた堆肥は、成分検査されて市場に提供されますが、今回の様な新しい成分を考慮したビジネス展開を考えると、調査項目が増えるだけでなく、厳重な用途規制なども入るかもしれません。

有機物は均一化が難しい部分がありますが、天然成分由来であるという安心感は重要です。さらに植物ホルモンによる機能性が担保されれば、ビジネスとして展開も可能かと思います。

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