トゲを作る重要な遺伝子を発見!トゲ無しのバラも作れるかもしれない。

研究

「美しいバラにも棘がある」「茨の道」など、トゲと植物の縁は深いものです。そんなトゲを制御する遺伝子が特定され始めています。しかも、1つの植物種属内だけでなく、多数の種属で同様の遺伝子が特定されました。

植物の「トゲ」は、自然界では必要。でも園芸では不要。

トゲのある植物をいくつ知っていますか?バラやアザミなどの花が一般的でしょうか。サボテンやアロエなどの多肉植物にもトゲがありますね。野菜では、トマトは茎にトゲがあり、きゅうりは実にトゲがあります。気を抜くと刺さります。

自然界においては、捕食者に対して抵抗する手段として、またストレス耐性や吸湿に関与しています。過酷な自然界で生きていくためには、とても重要な器官です。

一方、私たちが食べたり観賞する園芸種は、品種改良の結果、トゲが少なくなっています。私たちが植物を活用する際、生産の作業効率や付加価値を考えると、トゲ無しの価値が非常に高いです。

「トゲ無し」品種を作るために、あるときトゲのない品種が発見され、育種に活用されました。やがて一般的になり、園芸品種ではトゲ無しや小さなトゲが当たり前になりました。この違いがどのように起こっているのか、はっきりとはわかっていませんでした。

ナス科のトゲあり野生種と、トゲ無し園芸種の遺伝子を比べてみた

トゲの残っている野生のナス科植物と園芸種のナスの遺伝子を比較しました。

その結果、植物ホルモンである「サイトカイニン」合成遺伝子が変異すると、トゲが消失することがわかってきました。サイトカイニン合成遺伝子には様々な種類がありますが、その中のLONELY GUY(LOG)と名付けられた遺伝子が変異するとトゲが消失していました。Lonely guy:孤独な男、とは、なんとも意味深な名前です。

トゲが消失する様々な変異パターンがありますが、31パターンのうち14パターンはこの遺伝子が関与していました。トゲ発生の制御は複雑な遺伝子群の相互作用で引き起こされますが、その半数がLOG遺伝子によって制御されていることを考えると、トゲ発生においてLOG遺伝子はとても重要な遺伝子と言えます。

似た遺伝子をバラやベリーでも確認

ナス科ではLOG遺伝子がトゲの発生を制御していることを突き止めました。では、他の植物種属ではどうでしょうか?

解析を進めると、トゲを持つ植物であるナツメヤシやバラにもLOG遺伝子の配列に似た遺伝子があり、この遺伝子を欠損した品種はトゲ無しになっていることが判明しました。

さらに、トゲ無しの品種が確立されていないオーストラリア原産のナス属野生種と、ベリー類のLOG遺伝子を特定しました。この遺伝子をゲノム編集技術を用いてピンポイントで変異させたところ、なんとトゲ無しの個体を作ることに成功しました。

LOG遺伝子は植物内に広く存在しており、特にトゲのある植物ではトゲ形成に深く関与していることが判明しました。

「トゲ無し」の価値を見極める

私たちが消費する園芸品種において、トゲがないことは生産性につながる重要な形質です。トゲがあると、作業員が怪我をしたり、農業機器を傷つけたりします。また、消費の面でも、怪我を避けたり食味を損なわないための処理が必要になり、余計な労力を求められます。

今回紹介した研究で見つかったLOG遺伝子は、トゲのある植物からトゲを無くす可能性を提供してくれます。より効率的な農業・消費のため、トゲの存在に悩んでいる品種が今後LOG遺伝子の変異により改良されるかもしれません。

一方で、人間は面白いもので「トゲがあるから良い」と思う場合もあるでしょう。例えばバラはトゲがあることで高貴なイメージを持てるのかもしれません。LOG遺伝子の活用であらゆる農産物のトゲを無くすことができても、時にはトゲを残す、そんな品種も残り続けるのではないかと予想します。

今回の参考文献はこちら↓(published: 2024/08/02)

Convergent evolution of plant prickles by repeated gene co-option over deep time.

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