赤い光の効果を経験的に知る現場
「朝日と夕焼けを浴びた植物は良いものが取れる」と研究者と農家の方から聞いたことがあります。どちらも赤~オレンジ色の光ですね。朝焼けで浴びると収量が伸び、夕焼けで浴びると質が上がると研究者の方が考察していました。言われてみれば、野菜が多く取れるのは、朝焼けが山に遮られず、かつ海で反射されて増大する太平洋側が多いイメージあります。逆に夕焼けが海に反射して増大する日本海側は「米どころ」と呼ばれる地域が多いように、質が高い作物が取れているイメージです。上記のコメントに対して科学的な証拠を私は持っていませんが、現場の方が実際に感じている赤色の光の効果なのだと思います。そういえば、ハウスに赤色のフィルムを貼ってどうなるか試験するとお話されていた研究者に10年くらい前にお会いしましたが、あの試験、どうなったのでしょうか。
植物に赤いレーザーを当ててみたら遺伝子レベルで変化した
アヤメ科グラジオラス属の「グラジオラス」に赤色レーザーを当てた研究が報告されました。光源はヘリウムネオン(He-Ne)レーザーで波長は635 nmの赤色です。レーザの出力(5~50 mW)や照射時間(30秒~10分)を変化させながら、球根に照射して、その後土に植えて育った個体の評価を行いました。予想通りというか、高出力の長時間照射は植物にダメージを与えました。一方、特定の出力と照射時間であれば植物に良い影響を与えることが確認できました。例えば道管が太くなって栄養素の摂取効率が上がったため生育が良くなりました。植物ホルモンの放出も変化しており、細胞レベルの生育が変化していました。赤色光を特定の条件で当てただけでこれほどの変化が起きるのは驚きです。
赤色光で起きた変化は遺伝子変異なのか代謝変化なのか
グラジオラスの研究では、SSRマーカーを使った遺伝子変異も確認されており、レーザー照射により遺伝子レベルでの変異が起きていることがわかりました。植物の変異誘導といえば、重イオンビームや中性子線、シンクロトロン光での変異誘導が一般的です。グラジオラスの研究では赤色光なので、それほど遺伝子を切る力はないのではないかと思いましたが、変異しているようです。高出力レーザーであることが重要なのかもしれません。
一方、赤色光の植物への影響は様々で、例えば発芽、成長、Shoot数、花芽の数、開花タイミングなどなど、様々な減少に影響することが確認できています。これは遺伝子変異を伴うものではなく、赤色光が代謝を変化させた結果です。
グラジオラスの例は、変化の状態から変異誘導と代謝変化の両方が作用している結果なのでは無いかと考えられますね。赤色光の可能性がまだまだありそうで興味深いです。
「赤色レーザー」照射で育種と生育促進の二兎を追う
植物にもよりますが、「赤色」のヘリウムネオン(He-Ne)レーザーを適切に植物に当てると、恩恵を得られることがわかりました。グラジオラスの場合だと低出力で5分程度の短時間ですので、コストも低そうです。光を当てた当代の生育が良くなるようでしたら、付加価値のついた作物生産に繋がりそうです。また、遺伝子レベルの変異を誘導できるのであれば、突然変異系統として育種材料を獲得することもできるかもしれません。
ネガティブな反応が出ない範囲で作物にレーザー照射することで、栽培促進と育種を両輪で回していける栽培モデルが作れませんかね?
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