農薬以外の害虫対策の開発
現代の農業では、農薬の使用により病害虫対策を行うことは必須です。有機農法で無農薬野菜を作ることも可能ですが、生産性が低く、全世界の人口を有機農法だけで生産した作物で維持することは困難です。今後も人口が増え続けることを考えると、農薬使用による生産性向上は必須と言っても過言ではありません。一方で、農薬を使い続けると「耐性」を持つ虫や病原菌が出現します。害虫は移動速度が早いため、あっという間に圃場に広がってしまいます。そのため、農家は農薬をローテーションで使用するなど、農薬に耐性を持たせないよう労力をかけ、生産性が落ちてしまわないよう日々努力されています。
このような状況を改善するため、農薬以外の害虫対策が期待されています。それが「レーザー照射による害虫駆除」です。
An optical system to detect, surveil, and kill flying insect vectors of human and crop pathogens
「Photonic fence」の構造
害虫を検出して駆除するシステムは「光学柵」Photonic fenceと呼ばれています。簡単に言うと、レーザー照射器を備えた2本のポールの間を通る虫を迎撃するシステムです。害虫を検出するために、高度な光学イメージングシステムが備え付けられており、これが虫を検出します。害虫が検出されると、レーザーが照射されて虫が焼き殺されます。まさに対空迎撃システムですね。
有用な虫は迎撃しないシステム。
このシステムの素晴らしいところは、すべての虫を殺してしまうのではなく、虫を識別して有用な虫へは攻撃しないところです。例えばミツバチは、花の受粉を手伝う媒介者ですので、実をとる作物には欠かせない作業員となります。なので、ミツバチを排除してしまうと、収量が下がってしまいます。このシステムでは、有用な虫、害のある虫を認識しており、害虫のみを迎撃するシステムになっていました。
レーザーを放つ2本のポールは、虫を識別する装置も組み込まれています。虫がポール間を横切ると、立体カメラにより虫の3次元モデルを構築します。このデータを元に、害虫であるかそうでないかを判断するようです。害虫であると判断されると、レーザーが適切に当たるように反射板が稼働して害虫を追跡しながらレーザーが照射されます。非常に高度なシステムですね。
将来の農業では、農薬と物理的排除の組み合わせが一般的になるかも。
試験では、このシステムを起動すると、何もしないときよりも明らかに害虫の数が減ります。またかなり小さな虫も補足可能であるため、応用範囲も広いでしょう。この様な物理的な害虫の排除方法が農業でも使われ始めると面白いですね。今回の迎撃システムは虫を圃場に入れないようにする「予防」的な使われ方になると思います。すでに圃場に入ってしまった病害虫はこれまで通り農薬に頼ることになりますが、予防により罹患頻度が下がれば農薬の使用回数が減り、「耐性」をもつ病害虫を発生させることも減らせるかもしれません。病気が減れば、収量を維持しながら農薬の使用量が減り、労力も削減できる、まさに一石三鳥な農業が実現できるかもしれません。今後の展開に期待したいですね!
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