植物と土壌菌の共生関係
普段私達が食している作物の殆どが、田畑の土壌で作られています。健全に生育する植物は土壌微生物と絶妙なバランス感覚で共生関係を築いています。この共生には様々なパターンが存在します。例えばマメ科植物と根粒菌は、植物の根に「根粒」という粒上のコブを作り、その中で根粒菌を培養します。植物側からもたらされるエネルギーを用いて、根粒菌は空気中の窒素(N2)を取り込み、植物が利用できる形(有機態窒素)へと固定して、植物に供給するWin-Winの関係を築いています。マメ科植物と根粒菌ほど密接ではなくとも、根から放出される有機物質を餌に、土壌微生物は植物にとって有用な栄養素を作り出し、供給する様な共生関係は偏在しています。
この関係を促進するには、異なる作物の栽培を繰り返す「輪作」や隣に違う作物を植える「混作」が有効だと言われていました。どの様な理由で有効なのか様々な組合合わせが研究されていますが、植物種や環境が多様で、今後も研究が続けられると思います。今回は、落花生・アブラナ・トウモロコシの輪作・混作のメカニズムが解析されていましたので、ご紹介します。
Legume rhizodeposition promotes nitrogen fixation by soil microbiota under crop diversification
落花生の生育はアブラナとの輪作が良く、トウモロコシと混作するともっと良い。
研究では、落花生の生育に着目していました。まず、アブラナを栽培した後、落花生を植えると(輪作)、落花生だけを立て続けに栽培したときよりも生育量がアップしました。さらに、その後トウモロコシと「混作」すると、より生育が良くなる現象が観察されました。生育が良くなった落花生を解析すると、根に着生する「根粒」の数が増加していました。落花生に根粒がたくさんついた結果、落花生に供給される固定窒素の量が増え、植物体量が増加したものと考えられます。窒素は植物にとって、三大必須栄養素であり、特にマメ科の植物は窒素の要求量が大きい植物です。根粒着生数の増加は、落花生にとって肥料を多く撒いたことと同じ様な効果をもたらします。
輪作と混作は土壌微生物の群集構造を変化させていた。
落花生だけを栽培し続けた土と、アブラナの後に輪作した土、さらにトウモロコシと混作した土を解析されていました。その結果、明らかに土壌中の微生物の群集構造が変化していました。土壌微生物の群集構造の変化は、植物への相互作用が変化します。例えば、先例の根粒菌は、植物から放出されるNod factorと呼ばれるフェノール物質(ダイゼインなど)を感知して、マメ科植物との共生を準備します。輪作や混作により複数の植物から放出される物質にさらされることで、土壌微生物側も変化が起こり、その結果、今回のような植物の生育促進につながったと考えられます。
輪作・混作のバリエーションは無限大
今回の試験では落花生とアブラナ、トウモロコシの組み合わせでした。例えば落花生を同じマメ科のダイズに変えた場合も同様の効果が期待できそうだと予想できますが、確証はありません。異なる種族間で起こされる現象なので、やってみないとわからないというのが実際だと思います。
一方で、人類には長年培ってきた「経験」というものがあります。例えば、輪作や今作の古い例では、ネイティブアメリカンが実施していたという記録があります。彼らはトウモロコシとカボチャ、インゲンを混色していました。インゲンは直立するトウモロコシにツルを巻き付けながら成長し、マメ科の効果で土壌を豊かにします。かぼちゃはツタを這わせることで、土壌を覆い、乾燥防止や雑草防止に役立てるそうです。すでに人類は何千年も前から輪作・混作を実施していたのです。その経験を科学的に裏付けることで、収量増進につながる新たな発見につながるかもしれません。先人の「勘」や「知恵」を「知識」に変えていく、そんな作業が必要なのだと思います。
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