ヒトと植物を並べても、同じ生物とは思えませんよね。しかし、タンパク質レベルのミクロな解析では類似点が見つかったという報告がありました。この部分だけはヒトと植物は皆親戚なのか。
ヒトのタンパク構造解析を行っていた。
ある研究グループは、ヒトのリソソームの解析をしていました。リソソームは生物の細胞内にある小器官です。細胞外から入ってきたものを取り込んで分解し、必要なものは細胞内へ、不要なものは細胞外へ放出する反応を担っています。その、リソソームの表面には「LYCHOS」と呼ばれるタンパクが存在していました。LYCHOSはコレステロールのセンサーとして機能するリソソーム膜貫通タンパク質で、正確な機能はわかっていませんでした。そこで研究グループはこのタンパク質を詳細に解析してみることに具体的な機能を調べたり、凄まじい解像度の顕微鏡で構造を特定したり、様々な解析を行っていました。解析を行うと、LYCHOSはなにかの物質を輸送する「トランスポーター」だと言うことがわかってきました。
構造が近いタンパクを検索すると…
LYCHOSの機能がわかってきたので、このタンパク質に類似のタンパク質がこれまでに研究されていないか調べていきました。その結果、なんとLYCHOSはヒトの中のタンパク質よりも、植物の中にある「PINトランスポーター」と呼ばれるタンパク質ファミリーに近いことが判明しました。植物中のPINトランスポーターは「オーキシン」と呼ばれる「植物ホルモン」を輸送することがわかっています。より具体的には、PINトランスポーターは「インドール‐3-酢酸:IAA」と呼ばれるオーキシンをガッチリ掴む構造を持っていて、植物内を輸送することで成長や代謝反応のスイッチとして機能していました。
植物と同じ機能なのか?
では、ヒトの中にあるLYCHOSタンパク質は、同じ機能を持っているのでしょうか?研究グループはこの疑問も解決してくれています。なんと、LYCHOSはIAAを保持することができたのです。LYCHOSのIAAを掴む力は、PINトランスポーターに比べると弱いようですが、ほとんど同じ機能であり、形も機能も植物に近いタンパクということが判明しました!
IAAは、植物内で機能する植物ホルモンとしては非常に一般的な成分です。一方で、ヒトをはじめ、動物での機能解明は限定的です。一部の微生物がIAAを合成し、それを生物が利用している可能性があり、新たな生理活性物質として研究が進んでいるようですが、まだまだ未解明の分野です。
動物において、IAAが生理活性物質として重要視されていないことから、LYCHOSの機能もIAAを輸送することよりも他の類似物質の輸送に関与しているかもしれない、という説が研究グループの主張です。その証拠に、構造は似ているのにIAAを捕まえる力が弱いことが挙げられます。IAAの保持能力を失った代わりに他の物質を捕まえて輸送している可能性が高いということですね。
生物の中は、まだまだ謎だらけ
動物内にあるタンパク質が、植物のタンパク質に似ているという興味深い研究でした。リソソームという、高等生物であれば持ってる組織、その中のタンパク質なので、今回報告されたような例が起こり得ることは理解できますが、実際に見ると奇妙です。LYCHOSとPINトランスポーターは構造が酷似していますが、主だった機能は違う可能性があります。この機能の違いは、進化の過程のどの段階で別れたのか、なぜ別れたのか、疑問は尽きませんね。やはり生物は面白いです!
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