2023年の Communications Biology 論文は、「月の土に地球の菌を入れて植物栽培に成功した」と紹介されることがあります。しかし実験に使ったのはApollo試料などの実際の月レゴリスではなく、地球上で作ったlunar regolith simulantです。
研究の問いは、月面資源利用を想定して、レゴリスに含まれる難溶性リンをphosphorus-solubilizing bacteria(PSB)で植物が使える形へ変えられるか、というものでした。
使用したのは中国吉林省由来の火山性materialを基にしたsimulant

研究では月レゴリスの物理・化学特性を模したmaterialを使っています。Apollo 14 lunar soilはsimulant設計の参照情報の一つですが、栽培基質としてApollo sampleを使ったわけではありません。
ここは、実月土での栽培研究と混同してはいけません。
5種のPSBを試し、3種がsimulant条件に耐えた
研究チームは5種のphosphorus-solubilizing bacteriaを評価し、Bacillus mucilaginosus、Bacillus megaterium、Pseudomonas fluorescensがlunar regolith simulant条件に耐え、不溶性無機リンを可溶化できることを示しました。
21日間のbio-improving experimentで、available phosphorusが増加しました。
Nicotiana benthamianaを24日間栽培

微生物処理したsimulantで Nicotiana benthamiana を24日間栽培すると、未処理simulantより生育が改善しました。
ただし「普通の培養土と完全に同等」「月レゴリスだけで植物生産システムが完成」と読むのは強すぎます。月レゴリスは有機炭素・窒素などが乏しく、多くの栄養元素も植物が利用しにくい形で存在します。この研究が改善した主対象は難溶性リンのavailabilityです。
これはterraformingではなく、in-situ resource utilizationの基礎研究
PSBでregolith-derived substrateの栄養利用性を改善できれば、将来のbioregenerative life-support systemで地球から運ぶ培地量を減らせる可能性があります。
しかし月面では低重力、真空、放射線、極端な温度、perchlorate等の有害要因、閉鎖系での水・窒素循環など、この試験に含まれない条件が多数あります。
したがって「月面を緑化するterraformingの第一歩」より、月面基地で現地資源を栽培基質へ近づけるためのmicrobial soil engineeringのproof-of-conceptと捉える方が正確です。
2026年Author CorrectionはFig.1aの粒径ラベル修正
2026年6月16日にAuthor Correctionが公開されました。修正はFig.1aのsimulant粒径ラベルの順序で、正しくは上から0.3–0.5 mm、0.5–0.9 mm、>5 mmです。
研究の結論や植物生育結果を覆す訂正ではありませんが、リマスター版では修正済みVersion of Recordを基準にします。
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参考文献
- Xia Y et al. Phosphorus-solubilizing bacteria improve the growth of Nicotiana benthamiana on lunar regolith simulant by dissociating insoluble inorganic phosphorus. Communications Biology. 2023;6:1039. https://doi.org/10.1038/s42003-023-05391-z
- Xia Y et al. Author Correction. Communications Biology. 2026;9:827. https://doi.org/10.1038/s42003-026-10421-7



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