The hidden oases: unveiling trophic dynamics in Namib’s fog plant ecosystem
霧を集めるイネ科植物 Stipagrostis sabulicola
アフリカ大陸南西部、ナミビアの大西洋に面したエリアにナミブ砂漠があります。この砂漠はアンゴラ南部や南アフリカ北部にも広がる広大な砂漠です。ナミブ砂漠は極度の乾燥砂漠であり、地形的に降水が少ない地域です。そのため、大西洋で蒸発した水分が風に乗って大陸に運ばれた際に発生する「霧」が水分の主な供給源です。この霧を有効活用する植物種が進化してきました。その一つがイネ科の植物である Stipagrostis sabulicola です。S. sabulicola は葉や茎の表面の湿潤性が高く、霧粒からの効率的な水滴の収集が可能です。また、葉や茎にある溝構造がレールのような役割を果たし、水滴を成長点や根へと誘導します。この構造的進化のおかげで、S. sabulicola は雨が降らず、霧が発生する地域で優位に生きていくことが可能になります。以前から、このような霧の捕集構造のメカニズム自体は解析されてきましたが、この霧捕集の効果は植物自身だけでなく、周りの生態系へ多大な影響を与えていることがわかってきました。
地上部は無脊椎動物と微生物の住処であり炭素源である
S. sabulicola は砂漠の所々に群生します。群生のサイズもまちまちで、最初は数十センチの小さなエリアですが、霧を補集した S. sabulicola はどんどん増えて数十メートルに広がります。水分を得て光合成をすることで、不毛の地で有機物を合成します。生きている植物体自体は、植物内に内生菌を住まわせ、微生物生態系を構成します。また、植物体は地下茎で広がりながら横に増えていきますが、一部の茎や葉は枯れて微生物や虫類の餌となります。こうして、S. sabulicola は生育範囲を増やしながら、炭素源を供給し、自身以外の生物が生きるエリアも拡大していきます。S. sabulicola 尊い。
地下部も生物のゆりかご
S. sabulicola は土の下でも他生物の生育を助けています。まず、捕集した霧は水滴となり、地下部へも供給されて周辺の土も潤します。さらに光合成によって作られた炭素を原料に有機物を合成し、根の周りに放出されます。その結果、土壌微生物が生育できる環境が整い、根圏微生物フローラが形成されます。微生物が増えると、それを食べる線虫などが生育でき、その老廃物は植物への肥料分としても機能します。最終的には自分のためとはいえ、S. sabulicola は地下部でも生物多様性を支えていて尊いです。
砂漠の生物多様性を支える霧植物
雨が少ないという生物にとって過酷な環境下にも関わらず、肥沃な土地で形成されるような生物の多様性が、S. sabulicola によって砂漠に形作られていました。まさに霧によって作られたオアシスです。そのオアシスのサイズは小さなものですが、互いに影響しながら少しずつ大きくなっていく様は、どんなところでも生きるのを諦めない生物の強かさを感じさせます。
砂漠に比べたら、アスファルトの隙間でさえ天国かもしれません。植物にとって生育できない場所なんて無いのかもしれませんね。
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