軽くて透明な葉の上に乗ってることを感じさせない透過型生育モニタリングデバイス。

研究

植物の生育モニタリング

様々なセンサーを用いた植物の生育モニタリング分野の研究が増えてきています。以前にも紹介した論文がありましたが、こちらはゲル状の電極を植物に埋め込むタイプでした。それ以外にも様々開発されていて、例えば、柔らかいセンサーを植物に巻き付けて使うタイプ、粘着テープで取り付けるタイプ、インクジェット方式で植物に印刷したり、蒸気ポリマーで印刷したりと、あの手この手で研究が行われています。どの方法も植物をモニタリングすることは可能ですが、短期間に限られる物が多く、それはこれらのデバイスが植物の生育に害を及ぼすことが多いせいです。また、遮光性のあるデバイスも多く、光合成を阻害してしまう点も、長期運用に向いていない要因でした。今回紹介するのは、軽くて、薄くて、透明なデバイスで、植物につけっぱなしにしていてもほぼ害のない画期的なデバイスです。

All-organic transparent plant e-skin for noninvasive phenotyping

Plant e-skin

そのデバイスの根幹となる物質はポリスチレンスルホン酸塩(3,4-エチレンジオキシチオフェン、PEDOT:PSS)という聞き慣れない素材です。PEDOT:PSSは柔軟で透明な有機素材で、優れた電気伝導性をもち、植物モニタリングにはうってつけでした。このPEDOT:PSSの回路を、同じく伸縮性のある透明なポリジメチルシロキサン(PDMS)上に配置することでデバイスが完成します。この素材同士を配置する技術が重要で、新開発されたもののようです。

デバイスの厚さはわずか4.5μmです。透明、極薄、伸縮性の性質を備えており、ひずみセンサーと温度センサーを搭載しています。葉の表皮に設置すると植物の成長と表面温度を継続的かつリアルタイムで監視することが可能です。

400~700 nmの波長領域で85% を超える透過率をもっていて、これは植物の光合成に必要な波長をカバーしています。光合成をほぼ阻害しないってことですね。

葉を覆ってしまうと呼吸を妨げないか心配になります。その点も考慮されていて、基本的にこのデバイスは気孔の少ない葉の表面に貼り付けます。光合成を阻害しないため、表面につけることが可能です。また、デバイスの構成要素であるPEDOT:PSSとPDMSの両方がガスと蒸気を透過できます。なので、覆ってしまった葉の表面の気孔についても十分に機能すると考えられています。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk7488

Plant e-skinで測定できること。

生きたアブラナ属の幼葉に取り付けられて、実証試験が行われいています。

ひずみセンサーの実験テストでは、植物は「日中は最小限の成長」で「夜間に主に成長する」という明確な成長パターンを観測することができました。また、さまざまな非生物的ストレス条件下(熱いとか寒いとか乾燥しているとか)での成長速度が変化する様子も捉えていました。

温度センサーは、葉の表面温度の変動をしっかり捕捉しており、植物がどの様な熱ストレスにさらされているかモニタリングする事が可能です。

この様なモニタリングにより、植物がしっかり成長しているか、またストレスを受けていないかをリアルタイムで、かつストレスをかけること無く計測することが可能です。

VR空間上に植物の生育を再現する。

Plant e-skinで採ったデータをVR空間上に投影して、バーチャル生育モニタリングなるものが作られました。これは人が管理するときに、生育状況やストレス状況をより分かりやすく示すための試みのようです。バーチャル空間上であれば、例えば今熱ストレスを受けて温度が高くなっている葉を赤く表示したり、十分に生育できる葉・できていない葉を色分けしたりなど、植物を見るだけでは気付けない変化を分かりやすく示すシステムのようです。おそらくですが、Plant e-skinのデータ以外も投影できる技術なので、応用の幅は広そうです。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk7488

「スマート農業」の実現に向けて、センサーは必須

様々な分野でデジタルトランスフォーメーションが叫ばれていますが、農業も「スマート農業」を目指して日々開発が進んでいます。農業の根幹は「栽培管理技術」です。栽培管理は経験や勘に頼る部分が多く、その要因の1つは植物の生育スピードが遅く、変化を捉えるのが難しいからだと思います。少子高齢化、生産人口の減少は確実に進んでいるため、経験を積むこと無く、ある程度管理できる技術が必須と考えます。そのためには、今回紹介したようなデバイスは大きな助けになると感じました。コスト面や超長期運用の害など、未知の部分も多いですが、使えた場合のメリットのほうが多いです。今後の農業生産性を維持するためには、もうリスクを取りながら進めていくしか無いフェーズにすでに入っていると実感しますので、新しく、有用そうなものはどんどん普及していってほしいですね。

皆さんの意見も聞かせてください。

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