経済制裁逃れの木材を特定したいという需要
2021年頃から「ウッドショック」という単語を効くようになりました。端的に言えば木材不足。2020年のコロナ禍を端に、2022年からのロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、市場の木材が不足しています。木材を使用する業界にとって経済的な影響が大きく、様々な解決策が日々模索されているという状況ですが、一方でロシア・ウクライナを取り巻く情勢から「経済制裁」としてロシア・ベラルーシからの木材を輸入禁止にしたり、関税を上げたりしています。侵攻以前、ロシア・ベラルーシは木材を世界に輸出しており、木材不足は必須でしたが、西側の国々は政治的観点から経済制裁を優先させています。
さて、皆さんは木材を見ただけで、産出国が当てられますか?プロの方だと大きく国が違えば当てられるかもしれません。しかし、緯度が同じであったり、気候が似ている別の地域で同じ木材を取った場合、かなり似た木材になり、判別が難しくなります。実際、ロシア・ベラルーシの木材が経済制裁以降も偽装されて輸出された例もあるようです。なので、科学的手法で得られた数値を使って産地を判別する手法が開発されました。
A framework for tracing timber following the Ukraine invasion
機械学習による産地特定
もともと、産地特定には科学的手法が用いられてきました。例えば安定同位体比分析 (SIRA) や微量元素分析 (TEA)です。SIRAは環境条件と相関して変化する天然に存在する安定同位体の比を測定します。地域ごとの同位体比が分かっていれば産地特定に活用できます。また、TEAは植物が吸収した多量栄養素と微量栄養素を測定します。生育地域の環境によって、植物に供給される栄養素が異なるため、産地ごとの特定が可能です。
現在はこれらの数値を使って、機械学習による産地特定モデルが研究開発されていますが、地域ごとの最適化が必須であり、ヨーロッパ地域で大規模に実施しているのは今回の研究は初のようでした。
解析の結果、伐採された位置をある程度絞り込むことが可能になったようです。その範囲は180~230kmでした。東京駅‐浜松駅間が直線距離で214kmとのことなので、日本で言えば関東産なのか中部産なのかはわかるレベルでしょうか。このモデルを使えば、擬似的に産地を偽ったサンプルの40~60%は偽装を特定できるようです。逆に、産地が正しいものを否定する確率は低くなっているとのこと。数値としては改良の余地があると思いますが、高コストな調査をすること無く産地偽装をある程度見抜ける様になることは、経済制裁逃れの指摘においてははじめの一歩として十分機能するのかもしれません。
経済制裁だけでなく他の用途にも使えるのでは?
紹介した研究の動機として、ロシアのウクライナ侵攻による経済制裁が挙げられていました。とはいえ、この研究の応用の幅は広いと感じました。
例えば、ある地域の木材が硬いとか柔らかいというのが分かっていれば、それを指標に欲しい木材・需要の高い木材をピックアップできるかもしれません。また、特性が似ている木から、新たな植林候補地を決めることも可能かもしれません。
解析方法・機械学習モデル構築までがパッケージングできれば、他の地域でも応用可能かもしれませんね。私は日本人なので、日本の木材の産地特定が可能であるか気になります。
近い未来に「木材データベース」が作られるなら、重要なパラメーター・データとなるかも。
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