植物工場の効率化。赤と青のLEDに照らされたレタスはあまり美味しそうに見えないけど質は良い。

研究

水耕栽培の新時代と持続可能な農業

水耕栽培は、土を一切使用せずに植物を育てる方法であり、近年、環境に配慮した持続可能な農業の形態として大きな注目を集めています。この方法は、従来の土壌を使用する農業と比べて、水の使用量を大幅に削減することができ、また、土壌由来の病害虫の問題も避けることが可能です。さらに、土壌を必要としないため、都市部や不毛の地での栽培が可能になり、食料供給の多様化と安定化に寄与するとされています。

今回紹介する研究では、水耕栽培におけるLED光のスペクトル(光の色)と栄養液の交換方法が、レタスの成長にどのような影響を及ぼすかを探求しています。LED光は、特定の波長の光を植物に提供することができ、従来の太陽光に依存する栽培法と比較して、植物の成長に必要な光の条件をより細かく制御することが可能です。また、栄養液の管理方法は、植物の栄養吸収効率と全体的な健康に直接的な影響を与えます。これらの要素を最適化することにより、水耕栽培の効率を高め、持続可能な農業への一歩を踏み出すことができると考えられています。
The plant growth, water and electricity consumption, and nutrients uptake are influenced by different light spectra and nutrition of lettuce

方法: 光と栄養の最適化によるレタス栽培の実験

この研究では、異なる光のスペクトル(赤、青、白、赤と青の組み合わせ)を使用したLED照明と、3種類の異なる栄養液の交換方法(完全交換、EC(電気伝導率)に基づく部分交換、植物のニーズに基づく部分交換)を用いた実験を行いました。これらの条件の組み合わせによって、レタスの成長、水と電力の消費、栄養素の吸収の違いを観察することが目的です。

LED照明の光スペクトルに関しては、植物の光合成に最も効果的な波長の光を提供することに重点を置いています。赤と青の単独の光は、光合成に必要な「特定」の波長を提供し、植物の成長に直接的な影響を及ぼすとされています。白光は、太陽光に近いスペクトルを提供し、植物の自然な成長環境を模倣します。赤と青の組み合わせは、これら二つの光の利点を組み合わせたもので、レタスの成長に最適な条件を探るために使用されました。

栄養液の交換方法に関しては、レタスの栄養素吸収と水の使用効率を最適化することを目指しています。完全交換は、栄養液を定期的に新しいものと交換し、栄養素のバランスを維持する方法です。ECに基づく部分交換は、電気伝導率を測定し、栄養素の濃度が一定のレベルに達した時に部分的に交換する方法です。植物のニーズに基づく部分交換は、植物の成長段階や健康状態に応じて栄養液を調整するより洗練されたアプローチで、栄養素の使用効率を高めることが期待されます。

これらの方法を組み合わせることにより、レタスの成長に最も効果的な光と栄養液の管理方法を特定することがこの実験の主な目的です。このアプローチにより、水耕栽培における資源の最適化と持続可能性の向上を目指しています。また、植物の成長と健康に及ぼすこれらの要素の相互作用についての理解を深めることも、この研究の重要な側面です。

異なる LED 光スペクトルの下でレタス品種を栽培 ( A ) 赤青、3対1、( B ) 青、( C ) 赤、( D ) 白
https://www.nature.com/articles/s41598-023-48284-1

結果: 光と栄養管理によるレタスの成長と消費資源の変化

この研究で得られた結果は、水耕栽培におけるLED光のスペクトルと栄養液管理がレタスの成長、資源消費、栄養吸収に顕著な影響を与えることを示しました。

赤と青のLED光の組み合わせと、植物のニーズに基づく栄養液の部分交換方法が、レタスの成長に最も良い結果をもたらしました。赤と青の光の組み合わせを使用したグループでは、レタスの葉の成長が顕著に促進されました。この光の組み合わせは、光合成に必要な波長を最適化し、レタスの成長に必要なエネルギーを効率的に提供することができたためです。また、この光条件下で栽培されたレタスは、葉の色と質感も改善されていることが観察されました。光条件で、こんなにも生育が変化します。一般的に販売されている「植物栽培用LED」の中には青と赤のLEDが組み合わさった、如何わしい感じのLEDが売っていますが笑、あれ、結構理にかなっているということですね。

栄養液の管理方法に関しては、当たり前ですが、植物のニーズに基づく部分交換方法が最も効果的でした。この方法では、レタスの成長段階や健康状態に応じて栄養液を調整することで、栄養素の吸収が最適化され、無駄な栄養素の消費が削減されました。これにより、水と電力の消費も低減される結果となり、全体的な資源効率の向上が確認されました。

すでに植物工場で実施されているレタス、トマトなどの水耕栽培では、水耕液の管理をEC(電気伝導度)やpHをベースにすることが多いですが、本当によい野菜を作ろうと思うと手間をかける必要がありそうです。

さらに、栄養素の吸収に関する分析では、赤と青の光の組み合わせと植物のニーズに基づく栄養液交換方法を使用したグループで、窒素、カリウム、亜鉛などの栄養素がより効率的に吸収されていることが確認されました。特に、窒素は植物の成長に必須の要素であり、その効率的な吸収はレタスの健全な成長に寄与していることが示唆されます。一方で、鉄の吸収にはある程度の損失が観察されたため、今後の研究でその理由と改善策の検討が求められます。

これらの結果は、LED光のスペクトルと栄養液の管理方法が、レタスの健康的な成長に大きな影響を及ぼすと同時に、資源の消費を最小限に抑えることが可能であることを示しています。これにより、水耕栽培における持続可能性と効率性の向上が期待されます。

考察: 水耕栽培におけるLED照明と栄養管理の影響

この研究の結果から、LED光のスペクトルと栄養液の管理方法がレタスの成長と資源消費に大きく影響することが明らかになりました。特に、赤と青の光の組み合わせと植物のニーズに基づく栄養液の部分交換方法が、レタスの成長を最適化し、同時に水や電力の消費を減少させることが示されました。

赤と青のLED光の組み合わせは、レタスの光合成に必要な特定の波長を提供し、成長を促進する効果が確認されました。これは、植物の光合成プロセスに最適な環境を提供することで、植物の成長を加速させる可能性を示しています。さらに、この光条件下では、レタスの葉の質感や色の改善も見られました。これは、消費者にとって嬉しい点ですね。みんな美味しそうな野菜を食べたいと思いますので。

植物のニーズに基づく栄養液の部分交換方法は、栄養素の吸収を最適化し、水や電力の消費を減少させる効果がありました。この方法により、レタスの健康的な成長が促進されるだけでなく、環境への影響も低減されることが示唆されます。特に、窒素やカリウムなどの重要な栄養素の効率的な吸収は、植物の成長において重要な要素です。これにより、栽培過程での肥料の無駄遣いを減らし、持続可能な栽培方法への一歩を踏み出すことが可能になります。

しかし、鉄の損失については、今後の改善が必要です。鉄は植物の成長に必要な微量必須元素であり、その吸収の最適化は植物の健康と生産効率の向上に繋がります。今後の研究では、この点に注目し、栄養液の配合や管理方法の改善が求められます。

まとめると、この研究は水耕栽培におけるLED光のスペクトルと栄養液管理の最適化が、資源効率の高い持続可能な農業への道を開くことを示しています。これらの知見は、農業技術の革新に貢献し、特に都市部や限られた資源を持つ地域での食料生産の可能性を広げることに貢献すると期待されます。つまり「植物工場」ですね。また、消費者にとっての品質向上と環境への配慮も同時に実現することができるため、水耕栽培の普及と改善が今後ますます重要になってくるでしょう。

異なる LED 光スペクトルの下でレタス品種を栽培
https://www.nature.com/articles/s41598-023-48284-1

まとめ: 水耕栽培におけるLED光と栄養液管理の最適化の意義

この研究は、水耕栽培システムにおけるLED光のスペクトルと栄養液管理の最適化が、レタスの成長に及ぼす影響を深く掘り下げました。赤と青のLED光の組み合わせ、及び植物のニーズに基づく栄養液の部分交換方法が、レタスの健康的な成長を促進し、同時に水と電力の消費を減少させることが明らかになりました。これらの結果は、持続可能な農業技術の発展に寄与し、都市部での植物工場や、限られた資源を持つ地域(砂漠や寒冷地など)での食料生産の可能性を広げることに貢献します。

今回の研究はどのような点でビジネスに応用できるでしょうか。比較的、商用を意識した研究だったと思います。植物工場を改良するためのエッセンスが詰まっていたと思います。実際の現場では今回の研究でやられていたような手法のほうが高コストになる場合もあるかと思います。これはもう、ニーズや育てる作物、電気コスト、水コストに左右されるので仕方がないですね。しかし、今現在稼働している植物工場に、この研究の一部のエッセンスを入れるのは可能だと思います。その結果、付加価値化や品質向上による高収益がみこめる可能性があるのであれば、実施する意義はあると思います。

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