樹の中に住むアリ。複雑な菌叢と一緒に暮らしています。

研究

樹の中に住むアリとその共生微生物

アリは、その社会的組織と労働分担で知られていますが、彼らの巣内のバクテリアが成功に寄与している可能性があります。セクロピア(新熱帯区に自生する雌雄異株の樹木)という樹にに住むアズテカアリは、宿主植物であるセクロピア内の巣に「パッチ」と呼ばれる特有の構造を作ります。これらのパッチはアリだけでなく、バクテリア、菌類、線虫が住む場所であり、アリのコロニーの発展に不可欠です。しかし、これまでアリコロニーの生涯を通じた微生物群集の組成とその一貫性に関する詳細な知識はありませんでした。樹の中は一体どうなっているのでしょうか?

Bacterial diversity in arboreal ant nesting spaces is linked to colony developmental stage

解析方法:アズテカアリとセクロピアの共生関係の調査

この研究では、アズテカアリとセクロピアの共生関係をモデルシステムとして選び、アリコロニーの生涯を通じてバクテリア群集の動態を調査しました。アズテカアリは、セクロピアの空洞茎(ドマティアと呼ぶらしい)に住み、特定のカエトチリアレス菌、さらにバクテリア食性の線虫と共に数多くの明確なパッチを形成します。初期段階のコロニーでは、女王アリが最初のパッチを形成し、その後、働きアリが植物全体に新しいパッチを形成し維持します。この研究では、アズテカアリの3つの発達段階におけるパッチから16S rRNA遺伝子を増幅して配列を決定しました。rRNAとは、リボソームを構成するRNAであり、ウィルスを除く全生物に存在します。タンパク質合成に関わる重要な分子であるため、進化速度が比較的遅く、種のレベルにおいて高い相同性を示すことが知られています。種ごとに分けられるということですね。

アリコロニーの発達段階と、それらに対応する微生物パッチの概略図。
https://www.nature.com/articles/s42003-023-05577-5

結果・考察:アリコロニー発達段階におけるバクテリアの変化

アリコロニーの発達段階は、初期のコロニー、若いコロニー、確立されたコロニーとして3つに定義されました。これらのパッチの総読み取りの99.9%をバクテリアが占めていました。初期および若いコロニーのパッチは、成熟したコロニーのパッチと比べてバクテリア多様性が低く、アリの種に固有のコミュニティ構成は見られませんでした。最初は多種多様な菌がひしめき合っており、その後安定したコロニーとして成熟していくのかもしれません。最終的に、菌叢はアリ特有の菌叢に変わったので、アリ毎に「好みの菌叢」のようなものがあるのかもしれません。
アリによって作られるパッチは、病原体に対する抵抗力を持つバクテリアを含むことや、アリの幼虫に栄養を提供することが仮定されています。これはアリにとってもそうですが、もしかすると共生する植物にとっても有用かもしれませんね。

樹の中で起こるアリとバクテリアの共進化。

アリコロニーの発達段階に伴い、バクテリア群集の構成は変化します。初期段階のパッチから若い段階、確立された段階へと進むにつれて、バクテリアの多様性は顕著に増加しました。また、特定の分類群の相対的な配列量が増加または減少しました(菌の存在量が変化)。この研究は、アリとバクテリアの共進化と、樹の中での共生関係がアリコロニーの発展にどのように寄与しているかを理解する上で重要ですね。ふと見上げた樹の中でこんなダイナミックな変化が起こっているのは面白いです。

産業的な価値を考える。

産業的な価値についても未知数ですが、可能性は様々です。この論文では、パッチの形成過程については追求していませんが、植物の中を作り変えることは非常に興味深いです。現代の植物形質転換は、桜のクラウンゴール(腫瘍みたいなもの)から見出されたアグロバクテリウムと呼ばれる菌が、自身の持つ遺伝子を植物に導入することを応用しています。根粒菌はマメ科植物に根粒を作らせます。生物が植物に作用する例はたくさんあり、どれも有用が技術に繋がります。今回の例も、アリと菌の共生過程が解明されていくうちに、樹内の形を作り変えるメカニズムなどもわかってくると思います。ひいては、有用形質の誘導や新たな素材発見につながるかもしれません。

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