「フェアリーリング」菌類と植物の複雑な相互作用が作る自然構造体、そのモデル化に成功しました。

研究

自然界で起こる「フェアリーリング(FR)」という構造体をご存知でしょうか。菌類によって引き起こされる生物学的な形成物です。菌類(大雑把にはキノコ類)が取り囲む領域を作りながら、徐々にサイズが大きくなっていくリング状の構造を持ち、その周辺の植物は様々な生育パターンを示します。自然界でも、管理された芝生や庭園などの人為的な生態系中でも、様々な場所でで見られます。FRの大きさも様々で、直径1メートル未満から数百メートルという例もあるそうで、形成には年単位の時間がかかり、サイズによっては数百年かけて作られたFRと考えられる例もあるそうです。FRに関する菌類の研究は土壌生態学における古くからのトピックの一つで、最初の研究例は1807年とされています。今も研究が進行しており、主に2つのトピックで研究されています。1つはFRを形成する菌糸体の成長動態と空間構造を理解すること、もう1つはFRが作られた場所での土壌・植物への影響や物理特性の変化を理解することです。とても複雑に構成されるFRですが、FR形成の要素を特定することで、シミュレーションモデルを作ったと報告がなされていました。

Process based modelling of plants–fungus interactions explains fairy ring types and dynamics

フェアリーリング形成の植生への影響パターン

FRが形成されると、その周辺の植物への影響が観察されます。FRの構成菌や隣接する植物種によって反応が異なりますが、大まかな分類が行われています。この傾向を解析することは、FR形成の因子を特定することに繋がっています。FRの周辺植生への影響のパターン例は下の図のようになります。 タイプ1(1.1~1.3)はリング状の菌群体周辺は生育が抑制され、リングの拡大方向の先端やリング後端の植物の生育パターンが変化するタイプです。このタイプの場合は菌体から何らかの生育調整因子が放出されており、それが生育促進・抑制両方に影響しています。タイプ2はリング後端側の植物生育が促進されるパターンです。おそらくリングが通り過ぎた後は生育促進のための因子が存在している考えられます。タイプ3はFRが形成されても植物の生育に影響を与えないパターンです。菌種、植物種の組み合わせ次第で、上記のようなパターンでFRが形成されます。

自然界で観察される5種類のフェアリーリング
https://www.nature.com/articles/s41598-023-46006-1

フェアリーリング形成に関わる要素

モデル化に際して、FR形成の要素が概略されています(下図)。形成には、

  • 菌類
  • 植物
  • 土壌水分
  • 菌類阻害成分(菌類から出る菌生育阻害成分)
  • 肥料分
  • 植物毒素(植物から出る毒素)
  • 植物刺激剤(菌から出る植物生育刺激物質) などの要素が関わっていると想定されています。ポジティブな相互作用は実線の矢印で表され、破線はネガティブな相互作用を示します。灰色の矢印は、真菌と植物の死後の影響で阻害剤と栄養素の放出を示しています。これらの要素が複雑に絡み合い、FRを形成しています。 例えば菌類が生育すると疎水性の組織を作り出し、土壌への水分流入が変化します。菌類が生育する際には植物の生育にとって害のある成分を作るため(例えばシアン化物)、菌から一定間隔の植物生育が抑制されます。また、菌類が自分の生育に都合の良い環境を作るために植物生育刺激成分を合成して植物の生育を促進する場合もあります。植物の死後は土壌中に栄養素を供給するので、菌類と植物は共にこれらの栄養を獲得する行動を取ります。この様に各要素の相互作用でFRの形成パターンが形作られます。
モデル化された要素とその相互作用の概略図
https://www.nature.com/articles/s41598-023-46006-1

なぜリング状なのか

フェアリーリングはその名の通り、リング状に形成されます。リングの内側は菌類に専有されること無く、植物が生育しています。論文上では「ディスク状」と表現されていましたが、たしかに要素の組み合わせによってはディスク状になってもおかしくありませんが、必ず「リング状」になります。これもFR形成要素の影響と考えられていました。 FR形成時はある地点から始まりますが、その際はしばらくはディスク状です。ある程度菌糸が生育すると、開始点あたりの中心部では菌類の代謝が進み、自己DNA(Self-DNA)が放出されます(要素のうち、菌類阻害成分にあたります)。菌類にとって、自己DNAの蓄積は生育阻害に働くため、放出された自己DNAが多い中心部は菌類の生育が抑制され、代わりに影響を受けない植物が生育できるようになります。もちろん、これらの要素だけでリング状になることのすべての説明は出来ませんが、自己DNAによる生育抑制は現象の説明とマッチするため、1つの要因として考えられています。

モデルは出来たけどまだまだわからないことだらけ

報告では、様々な形成要素の強さや組み合わせを評価し、FR形成のシミュレーションモデルを作成していました。ほとんどのFR形成パターンを表現することが可能なので、今回検討された要素がFR形成を制御していると言えるでしょう。しかし、一般的なパターンを説明したに過ぎず、土地の形などが影響するパターンにはさらなる要素が関係しているため、研究は続けられるでしょう。さらに、関連した研究として注目されているのは、上記した自己DNAの影響です。菌類の生育阻害をもたらす「自己抑制化合物」は様々な用途が考えられるため、スピンオフの研究となるかもしれませんね。 草原や山林、芝生などを見かけたらフェアリーリングを探してみてください。そこには人間社会にも負けないほど複雑に絡み合った生態系であるFRが見つかるかもしれません。

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