バラの花のサイズを決めているマイクロRNAが見つかった。その制御は複雑怪奇。

研究
https://www.nature.com/articles/s41467-023-42914-y

バラの花弁のサイズに関する興味深い研究が「Nature Communications」に掲載されました。この研究では、植物の器官サイズが細胞増殖と細胞拡大によって緻密に決定されることが示されています。研究では、バラ(Rosa hybrida)の花弁における細胞分裂を制御する上で、「miR159」と呼ばれるマイクロRNAが重要な役割を果たしていることが明らかにされました。マイクロRNAは、ゲノム上にコードされていますが、酵素のようにタンパク質まで転写・翻訳されず、転写されるだけで機能する20~25塩基ほどの短いRNAのことです。マイクロRNAは様々な遺伝子発現を調節して生命現象を制御していますが、今回は花の大きさを制御していることがわかってきたようです。

Petal size is controlled by the MYB73/TPL/HDA19-miR159-CKX6 module regulating cytokinin catabolism in Rosa hybrida.

miR159とCKX6の相互作用

植物の器官形成や生育には様々な要因が関与していますが、大きくは細胞中の植物ホルモンの濃度が影響します。また、様々な植物ホルモンが植物内には存在しますが、大別してオーキシンとサイトカイニンという2つの植物ホルモン群の濃度バランスが器官形成・生育を制御します。 今回話題とした研究では、miR159が花弁においてサイトカイニンオキシダーゼ/デヒドロゲナーゼ6(CKX6)をターゲットにしていることが判明しました。CKX6はサイトカイニンの酸化還元を触媒して、これがサイトカイニンの分解に影響します。miR159のレベルが低下すると、CKX6の転写物が蓄積し、サイトカイニンの消去が早まりました。サイトカイニンが分解されること、細胞分裂の期間を短く制御してしまい、結果として花弁が小さくなることが観察されました。逆に、CKX6を低下させるとサイトカイニンが蓄積し、細胞分裂期間が延長されて、花弁が大きくなることが確認されました。

https://www.nature.com/articles/s41467-023-42914-y

複雑な調節機構の解明

miR159がサイトカイニンの分解を制御して、花弁のサイズを変化させていることは判明しました。では、miR159はどのように制御されているか確認されていました。その結果、転写抑制因子であるMYB73が、miR159のプロモーター部に作用して発現を調節していることがわかりました。 結論として、花弁のサイズに直接的な影響を与えるのはサイトカイニンの酸化還元酵素ですが、それを調節しているのはmiR159であり、さらにmiR159を制御しているのはMYB73という遺伝子だということがわかりました。このように、生物の発生が様々な因子で制御されているのがよく分かる例ですね。さらに、外的要因などでMYB73も発現が制御されていると思われるので、研究は尽きないですね~。

花のサイズが調節できると何ができるか?

今回はバラでの研究が進んでいました。品種間差異もあることから、すべてのバラに適応することは難しいですが、現品種のうち大輪系ではない品種を大輪化することが可能になるかもしれません。 上で出てきた転写因子MYB73は、元々はシロイヌナズナで見つかっていた遺伝子名で、それに似ているためにバラ版MYB73とされていました。ということは、バラ以外の植物でも同様の制御系が機能している可能性があります。お花屋さんで見かける植物が、この遺伝子の制御で大輪系にできる可能性にも繋がると思うと、夢がありますよね!

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