電気刺激で植物の生育が促進される。

研究
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1567539423001871

私たちが生活している世界では、常に電場による影響を受けています。地球の表面(地殻)は負の電荷を帯びていますが、上層大気は正の電荷を帯びており、私たちが生活する環境では常に電場が発生しているわけです。この電場の影響は、人や動物だけでなく植物にも及び、そして適切な強度の電場を付加すると、植物の生育にポジティブな影響を与えることがわかっています。植物の生育にどのような影響があるのか、見ていきましょう。

In situ self-induced electrical stimulation to plants: Modulates morphogenesis, photosynthesis and gene expression in Vigna radiata and Cicer arietinum

土壌への電気刺激が植物へもたらす影響とは?

植物自体も電場を持ち、それは無くてはならないものです。例えば、正に帯電したプロトン(H+)は、光合成によってエネルギーで輸送され、結果として生じた細胞内の濃度差がCO2から糖を作る原動力となります。光合成は太陽光を私たちが使用できる形に変換する最たるシステムであり、そこに使われている“電場”は私たちの生活に不可欠な要素と言えます。このように植物は電場を活用していますが、外から植物の育つ土壌に適切な電気刺激を与えることで、生育や物質生産を促進することが可能です。ジャガイモやセロリ、ケールを用いた研究では、生育の促進が確認されています。発芽や根の成長を促進し、収穫後の品質を向上させましたが、これは電気刺激によりイオン輸送が活性化され、さらに遺伝子発現、酵素の活性化、ストレス耐性の向上に繋がったと考えられています。このように、適切な土壌での電気刺激は、作物生産にとってプラスの影響があることがわかっていますが、植物毎に適切な電流量が異なるなど、研究は日々進んでいます。

土壌への電極の埋め込みがヒヨコ豆の生育を助ける

今回参考にした研究では、鉢植えのヒヨコ豆を使って、電場が生育にどのような影響をもたらすのか実験しています。ヒヨコ豆が育った鉢にプラス極とマイナス極の電極を埋め込み、その電極の配線が生育にどのような変化をもたらすのかを確認しました。その結果、回路中に抵抗を入れて適切な強度の低電流が流れるようにした場合に、生育が促進される現象が確認されました。例えば、植物の高さ、葉の面積、開花、重量およびクロロフィル含有量が増加し、植物の成長が促進されました。また、植物が栄養段階から生殖段階へ移行するまでの時間も短縮されました。これらの良い反応は、遺伝子発現パターンの変化によるもので、植物細胞内での水と溶質の輸送を助ける膜貫通チャネルタンパク質であるアクアポリンの増産が確認され、植物内の物質輸送が促進されたことが示されています。低電流をかけるだけなので、実際の農業にも導入しやすい技術であると考えられます。

https://www.nature.com/articles/d44151-023-00162-5

土壌に電流を流すことの影響は広い

電場による植物への好影響は様々な研究で確認されていますが、その作用メカニズムは非常に複雑です。電場が根表面に与える影響、根圏微生物に対する影響、土壌中の成分の物理的な特性の変化による栄養獲得の促進など、多くの要因が絡み合っていると考えられています。また、植物毎に最適なpHや水分量が異なるように、電場の強さも植物によって適切な値が異なります。これらの点は、現場での生産においては考慮しなければならないハードルとなるかもしれません。近年、農業現場では化学肥料による環境への負荷を軽減しつつ、持続可能でありながらも生産性の高い農業手法が求められています。今回紹介した技術は、これからの農業で活用される可能性を秘めていると思います。日本においても、“プラズマ照射”の農業・バイオ分野への応用が注目されています。これからの発電事業では、人間の生活だけでなく、作物栽培への電力供給も視野に入れていく必要が出てくるでしょう。

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