人工繊維の開発。木材から綿に代わるセルロース繊維を合成できるとしたら。

研究

綿と同等の機能を持つ「人工繊維」はまだない

綿は古くから使用されている優れた繊維です。化学繊維の発展が進んでいますが、綿の特性に近い繊維はまだ作られていません。綿の生産は1次産業で行われていますが、人手不足や環境負荷の観点から、今後の需要に対して生産量が確保できるかは未知数です。

そこで、綿と同じ「セルロース」をベースとした人工繊維の研究が進んでいます。綿の構造を模倣した多層構造の人工繊維が開発されていますが、工程が複雑で量産化が難しいこと、また機能が綿に劣ることが課題でした。

一方、最近報告された方法で作成されたセルロース由来の人工繊維は、綿に近い性質を持ち、製造方法も従来より簡易であるため、今後の社会実装に期待が持てる研究となっています。

引用文献:Cotton-quality fibers from complexation between anionic and cationic cellulose nanoparticles

木材から綿に代わる繊維を作る

綿はセルロースで構成されています。セルロースは植物の主要な構成要素ですが、綿はその特徴的な多層構造により、優れた特性を示します。例えば、綿は通気性がありながら、水へのなじみが良く、自重の24〜27倍の水を吸収できるとされています。このセルロース構造を模倣できれば、木材由来のセルロースでも綿に似た繊維を作成することが可能です。

人工繊維で綿の特性を再現することが難しい理由は、セルロースの多層構造を再現する必要があるためです。先行研究では、化学処理したセルロースを複数種類作成し、セルロース同士を相互作用で結合させて繊維を作成していました。これにより綿に似た特性の繊維が作られるようになりましたが、特性が劣っていたり、化学処理に使用する物質の有害性が課題となっていました。

新しいセルロース人工繊維は、静電気による結合を利用して作成されました。正と負に帯電させたセルロースを別々に用意し、混合しながら押し出し形成することで、糸状のセルロース人工繊維が作成されます。セルロースを帯電させるのは比較的容易であり、形成方法としては非常に簡便です。

https://www.nature.com/articles/s41598-024-69346-y

作られた繊維の特性は?

新しいセルロース人工繊維は、これまでの方法よりも簡単に作成できましたが、特性が伴わなければ実用化は難しいでしょう。作成されたセルロース人工繊維は、さまざまな試験で特性が調査されました。

その結果、この新しいセルロース人工繊維は、これまでのセルロース人工繊維よりも優れた特性を示しました。例えば、引張強度が非常に高く、ナイロン、レーヨン、ポリエチレン、セルロースアセテートなど一般的に使用される人工繊維と比べて、一桁高い数値を示しました。最新のIoncell®繊維と比較しても同様の性能を持つとされています。特に、湿潤状態での強度が高く、濡れていても強度が保たれる繊維となっていました。

綿に代わる人工繊維の衣類や日常品が身の回りに増えるかも

木材由来のセルロース繊維が「綿」に近づいてきました。天然コットンの需要は衣服だけでなく、工業製品としての糸やロープ、複合繊維など、多岐にわたるため、今後も需要は増加するとされています。今回の研究のように、木材から綿に似た繊維を作ることができれば、増え続ける需要に応えることが可能になるでしょう。

また、今回新たな手法が編み出されたように、作成方法や加工にはまだまだ改良の余地があるかもしれません。場合によっては、綿の特性を残しつつ、別の特性を付加した新しい繊維が開発される可能性もあります。

このような研究が進めば、近い将来、私たちが身につけたり使用するものに「繊維革命」が起こるかもしれません。楽しみですね!

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