ジャポニカ米‐インディカ米のハイブリッド米を作るために、イネの「時計」を合わせる。

研究

今も昔もコメの改良をしてきた人類

皆さん、お米は好きですか。糖質オフ・糖類ゼロ・糖質制限と世の中叫ばれていますが、やはり米は美味いです。米を主食とする場合の多い日本食は、米を美味しく食べるために発達したのではないかと思うほどです。世界に目を向けると、世界人口の半数以上がコメ(Oryza sativa L.)を主食作物としています。古代から栽培・育種が行われ、今も日々新しい品種が開発されています。美味しさも大事ですが、人口動態の変化に対応するための省力化や、温暖化に対応するための品種改良も今後必要になると考えられています。より良いコメを目指し、新しい育種技術の確立は急務なのです。

新しい組み合わせの「ハイブリッド米」の威力

ハイブリッド(HV)米と書きましたが、普段世界中で食べられているコメも主にHV米です。日本においてはジャポニカ種と呼ばれる粘り気のある米同士をかけ合わせてつくられたジャポニカ種内のHV米となります。アジアや中東、アフリカではインディカ種内でのHVがメインです。この種内HVによる育種はすでにやり尽くされ気味で限界に近づいており、突然変異など新たな遺伝資源探索が必要になっています。一方、ジャポニカ種とインディカ種のハイブリッドも存在します。このジャポニカ-インディカHV米、結構可能性があるみたいなのです。ジャポニカ種とインディカ種はそれぞれ利点があり、その要因遺伝子が片方の種にしか無い場合が多いのです。これは種が分離したあと多様性が低下して、それぞれの種から重要な遺伝子が淘汰された影響と考えられています。それの裏付けとして、イネは緯度が上がると多様性が下がるという研究結果もあるようです。ジャポニカ種とインディカ種を掛け合わせて新品種の開発が進めば、新たな特性を持った米が作られることは間違いないのですが、これはハードルが高く、だから今私達の回りにはジャポニカ-インディカHV米が無いとも言えます。

問題は開花「時計」がずれている。

ジャポニカ-インディカHV米の研究が進まないのは、主に「開花」のタイミングが揃わないからです。日周性開花時間(正確な日本語が調べきれませんでした):Diurnal floret opening time(DFOT)がイネに存在しており、日朝によって開花のタイミングが 調整されています。そしてこのDFOTがジャポニカ種とインディカ種で異なります。HV米を作る際は、ジャポニカ品種が雄性不稔系統(母系親)として使用し、インディカ品種を花粉供与体(父系統)として使用されることが多く、同タイミングで雌しべと花粉が必要になります。一般に、インディカ米はジャポニカ米よりも早い DFOT (平均1~3時間)を示します。このズレが、HV米の作出を難しくしており、さらに商業的なHV米提供のハードルとしても認識されています。

解決策は「時計」を制御する遺伝子にある

ズレいているなら揃えてしまえ、ということで、DFOTを制御するイネの遺伝子が判明しています。鍵となる遺伝子は「OsMYB8」です。MYB遺伝子といえば、一般的には転写因子のイメージでしょうか。転写因子はそれ自体が機能を持つタンパクをコードするわけではなく、他の遺伝子の発現を調節します。実際、OsMYB8はイネのジャスモン酸経路の調整を行い、DFOTを制御していることが突き止められています。また、インディカ種のOsMYB8をジャポニカ種に導入すると、DFOTがインディカ種の様に早まったそうです。これで、ジャポニカ種とインディカ種の雌しべと花粉を近いタイミングで得ることができます。受粉効率があがりますので、研究および商用生産の可能性が広がります。

未来のお米はネバネバとパラパラの間?

遮光したり低温処理したり大変な労力をかけるとDFOTを揃えることが可能で、その手法で作られたジャポニカ種‐インディカ種HV米は収量が15~30%高いと言われています。しかし、HV米の種子を得るのに上に書いたような大変な労力がかかるため、商業的な利用には向いていませんでした。DFOTのズレの原因遺伝子が突き止められたので、ジャポニカ種-インディカ種のHV米の研究が進むかもしれませんね。そうなる時になるのはHV米の特性や味。日本の米のようにネバネバしているのか、カレーに合うパラパラタイプなのか。はたまた形はジャポニカでパラパラしているとか…。いろいろな可能性があってワクワクします。

なにはともあれ、ハイブリッド米を研究するための「DFOTを揃えたハイブリッド米」を作るところがはじめの一歩ですよね。

Natural variation in OsMYB8 confers diurnal floret opening time divergence between indica and japonica subspecies

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