生物模倣:植物の蒸散メカニズムを使った発電ファブリックでスマホ充電できる!

研究

植物の蒸散流を通じて電気が生成される。

植物は根から水を吸い上げますが、その原動力は地上部で行われる「蒸散」です。地上部で蒸散が起こると、失った水を補填する水の流れが起き、結果根から水分が吸収されます。このとき、植物の中を通る水の流れは様々な物質を含んでいます。植物の構成体の大部分はセルロースですが、セルロースはマイナスに帯電しやすく、セルロースの中を通る水流はプラスの帯電を持ちやすくなります。この電位差は蒸散時に発生する電流となります。

そして、電流が発生するのであれば「この植物の蒸散メカニズムを発電に使えないか?」と考え、新たな発電デバイスの研究が報告されています。

Phyto-inspired sustainable and high-performance fabric generators via moisture absorption-evaporation cycles

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk4620

植物の発電メカニズムを模倣した構造体(MACファブリック)

植物内で電位差が生じる大まかなシステムについて説明しました。大事なのは、水の流れができることです。これを模倣した「MACファブリック」と名付けられた構造体が作成されました。板状のMACファブリックの片面から水分が蒸発すると負圧になり、反対側の面からは水分が吸収され、構造体の中に水流が発生します。これを実現するために、吸湿する面は荒い構造で、蒸発をさせる面は目が細かい構造で作られました。また、吸湿する面は親水性の物質になっており、空気中から積極的に水分をキャッチします。一方反対側の蒸散面は水を弾きやすい成分になっているため、蒸散が積極的に起きる構造となっています。これ以外にも工夫はたくさんされていますが、基本的な構造はこの様になっていました。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk4620

電子デバイスの充電も可能

では、作られたMACファブリックはどれくらいの発電が可能なのでしょうか。大量生産されたMACファブリックはとても小さな数センチ角の構造をしています。これを繋ぎ合わせ大出力にしていきます。その結果、約1m四方に敷き詰めたMACファブリックでスマートフォンの充電が可能でした。ソーラーパネルのように、外に持ち出す事のできる良い電源となりそうです。MACファブリックは蒸散速度が速ければ発電量も上がりますので、ソーラーパネルのように天気が良いときに出力は大きくなるようです。一方で、曇っていても周りが乾燥してれば十分に蒸散が進むため、安定した出力となるようです。更に研究が進めば、もっと効率のよい発電ツールになるかもしれません。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk4620

生物模倣で新たなエネルギー源の開発

蒸散を用いた発電分野はまだまだ研究が始まったばかりのようです。構造体に使用する構成要素を見直すともっと効率が上がり、ソーラーパネルのように私達の生活の中に組み込まれていくかもしれません。

以前にも生物模倣の論文を紹介しました(植物と虫の合せ技「生物模倣」で霧を集める。)。生物の構造やシステムは未解明な部分はたくさんあります。これらを解き明かして利用することで、わたしたちの生活がより良くなっていくのではないでしょうか。

直近では、カーテンが発電し始める未来が来るかもしれませんよ。

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