毒と薬は紙一重。植物にとって毒とされてきた物質「フシコクシン」による植物成長促進効果。

研究

これまで毒と認識されてきた物質が、適切な環境であれば「成長促進」という逆の効果を示すことがわかりました。その物質は「フシコクシン」です。植物病原菌から単離された物質で、樹木の枯死を招いてしまう毒として認識されていました。しかし、フシコクシンの作用機序を解析していくと、確かに植物にとって致命的なダメージをもたらすのですが、特定の条件では毒ではなく、植物の生育を促進する効果が出せることがわかりました。

Fungal toxin fusicoccin enhances plant growth by upregulating 14-3-3 interaction with plasma membrane H+-ATPase - Scientific Reports
Fusicoccin-A (FC-A) is a diterpene glucoside produced by a pathogenic fungus. Since its discovery, FC-A has been widely ...

植物を枯らす「フシコクシン」

フシコクシンは植物病原菌であるPhomopsis amygdaliによって生成される物質です。この物質は植物の「気孔」の開閉に作用します。気孔を開きっぱなしにしてしまうのです。植物は、気孔を通して酸素と二酸化炭素をやり取りし、さらに水分を蒸散させて植物の水分量を調整します。気孔が開きっぱなしになると、水分が過剰に蒸発してしまい、根域の水分が不十分な環境では植物が枯れてしまいます。

フシコクシンが気孔に作用するメカニズムは解析が進んでいます。フシコクシンは気孔の開閉時に機能する細胞に作用します。影響を受けた細胞は浸透圧が上昇し細胞の形が変形して気孔が開いてしまいます。フシコクシンの毒性は、気孔の開閉を植物側から制御不能にしてしまうことで発生します。人で言えば、汗を止めたいのに汗が出続けて水分不足で熱中症になってしまうような状況でしょうか。

一方で、研究者は考えました。「水分が十分にあれば、気孔が開いていたほうが生育が良くなるのではないか?」と。

水分が枯渇しなかったら、フシコクシンの効果はどうなる?

気孔の開閉は、植物の生育に影響する重要な要素です。気孔が開くと呼吸のための酸素や光合成に必要な二酸化炭素が供給されます。また、気孔から水分が蒸発して発生する蒸散流は、根からの水分吸収を促進する物理的な効果があります。一方で、自然界において気孔が開きっぱなしになっていることは危険で、根からの水分供給がなくなると、植物内の水分が減ってしまい、枯れてしまいます。そのため、気孔の開閉は厳密な制御がなされ、簡単には開かないシステムになっています。

植物にとって、フシコクシンの効果は通常ネガティブに機能しますが、水分供給が十分な環境では、一転してポジティブに機能しました。呼吸や光合成が促進され、蒸散流による水分獲得も促進されました。通常、植物は十分なガス交換や蒸散が行われると気孔を閉じますが、フシコクシンによって気孔が開き続けることで、植物の限界を超える成長促進が見られたのです。

十分な水分条件下での、フシコクシン添加による効果

十分に水分を供給しながらフシコクシンを添加すると、気孔の常時開状態が起こり、成長促進がみられました。

具体的には、フシコクシンの添加は「光合成」を促進しました。これは、気孔が開いていることで光合成に必要な二酸化炭素を十分に取り込めたためと考えられます。また、光合成には水分も必要であり、蒸散流によって水分の獲得が促進されたことも、光合成能力の向上に寄与したと考えられます。

光合成が促進された結果、生育自体が促進され、フシコクシンを処理した植物は無処理の植物に比べて大きくなるという、わかりやすい結果が得られています。

フシコクシン添加の効果は12~24時間持続し、その後48時間で無処理の植物との差がほぼなくなりました。適量だと効果があるが、過剰に使用すると害がある…まるでエナジードリンクのような反応ですね。

新しいバイオスティミュラントとしてのフシコクシンの可能性

近年、バイオスティミュラント(BS)=植物刺激剤の市場が拡大しています。BSは文字通り、植物に作用して生育を刺激・促進する物質です。フシコクシンの効果はBSとしても有効活用できそうですよね。

課題としては、フシコクシンの合成が高コストであるため、現時点ではフシコクシンをそのままBSとして適用することは難しい状況です。しかし、フシコクシンそのものではなく「フシコクシン生合成中間体」であれば、フシコクシンにくらべて効果が多少劣るものの、精製が容易なため費用対効果が得られる可能性があります。

今回の研究ではモデル植物であるシロイヌナズナに加え、コマツナでも効果が確認されました。様々な植物で使用できる可能性があると考えれています。

水分を制御できる「植物工場」のような現場で使用すれば、フシコクシンの毒性を成長促進効果へと変えられる可能性がみえてきました。将来「フシコクシン添加栽培!」のラベルが貼られた野菜を食べる日が来るのかもしれません。

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