「植物はどうして0℃になってもすぐ凍らないのか」。この問いは面白いのですが、答えを一つの“凍結防止物質”にまとめることはできません。2026年のレビュー研究まで踏まえると、植物の低温耐性は過冷却、氷核形成、氷の伝播、細胞外凍結、脱水耐性、低温馴化が組み合わさった現象として理解するのが適切です。
0℃になれば水が必ず凍るわけではない
水の融点は0℃ですが、液体の水が氷へ変わるには最初の氷結晶、つまり「氷核」が必要です。非常に純粋な水では、氷核がないまま氷点下でも液体を保つ過冷却が起こります。均一核生成だけで凍結が始まる温度はおよそ−39℃付近まで下がり得ます。
自然界ではそこまで過冷却する前に、鉱物粒子、植物組織、微生物などが不均一核生成の足場になります。つまり植物がいつ凍るかは、気温だけではなく「どこに、どんな氷核があるか」に左右されます。
植物は「凍らない」のではなく、凍り方を制御することがある
多年生植物などでは、組織の一部に氷ができても生き残れる凍結耐性が重要です。典型的には氷は細胞の外側、アポプラスト側で形成されます。細胞外に氷ができると水ポテンシャル差によって細胞内の水が外へ移動し、細胞内の溶質濃度が上がるため、細胞内そのものが凍る温度を下げる方向に働きます。
これは一見すると防御ですが、長時間続けば細胞は強く脱水されます。細胞膜やタンパク質がその脱水に耐えられなければ障害が起こります。したがって「細胞外凍結=安全」でもありません。
低温馴化で膜と細胞内環境を変える
寒さにさらされた植物は、低温馴化によって膜脂質組成、浸透圧調節物質、糖、タンパク質などを変化させます。膜の流動性を保ち、水が細胞外へ出入りしやすい状態を維持することは、凍結と融解を耐えるうえで重要です。
不凍タンパク質や氷再結晶を抑えるタンパク質も知られていますが、これらだけが「植物が凍らない理由」ではありません。種、器官、発達段階、季節によって戦略は変わります。
氷核細菌は霜害を早めることがある
植物表面の微生物も凍結温度を変えます。代表例の Pseudomonas syringae には高い氷核活性を持つ系統があり、比較的高い氷点下温度でも氷形成を誘導できます。2026年のレビューでは、こうした外因性の氷核と、植物自身の組織に由来する内因性の氷核を区別する重要性が強調されています。
「霜が降りた」ことと「植物組織が凍った」ことも同じではありません。気象条件、葉や芽の温度、氷核の位置、組織間の氷伝播によって被害は変わります。
耐寒性を考えるときは「どこで氷ができるか」を見る
植物の凍結研究は、単に最低気温を測るだけでは足りません。どの器官のどこで最初に氷が形成され、どの経路で広がったのかを見る必要があります。実験室では不自然に強い過冷却が起こることもあるため、野外条件との違いも重要です。
植物が冬を越せる理由は、凍結を完全に避ける能力と、凍結しても細胞を壊さない能力の両方にあります。「氷核形成阻害物質を持つから凍らない」という単純な説明よりも、凍結の開始場所と凍り方を制御する複合的な耐寒システムとして見る方が、現在の研究に近い理解です。
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参考文献
- Lamacque L. et al. Ice Nucleation and Freezing Consequences in Perennial Plants. Physiologia Plantarum. 2026;178:e70961. https://doi.org/10.1111/ppl.70961
- 北海道大学学術成果コレクション:植物由来の氷核形成阻害物質に関する研究. https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/73925


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